英語塾J PREPは2025年1月19日、「2025年度大学入学共通テスト試験分析セミナー」の英語版をオンライン開催した。毎年、大学入学共通テスト(旧センター試験、以下、共通テスト)英語試験の翌日に開催しているもので、同塾が蓄積してきたデータ分析と経験豊富な講師の解説により、共通テストを徹底解剖した。
新課程に対応した共通テストは、2025年が初となる。英語の試験にはどんな特徴が見られ、これまでとは何が変わったのか。問題傾向と対策をわかりやすく解説したセミナーのようすをお伝えする。
「話す・書く練習が不要」は誤解 高得点を狙うには4技能を
セミナーでは、3つの視点で共通テスト英語試験を分析した。まずは元イェール大学政治学科助教授でJ PREP代表の斉藤淳氏が、データ解析の視点から最新定量分析を実施。ついでJ PREP国内大学受験部統括責任者の桂侑司氏が、経験豊富な大学受験統括講師の視点から今回の試験分析と今後の対策を、そして同塾国内大学受験部主任講師のTom McCormack氏が、英語母語講師の立場から共通テスト英語試験の特徴を解説した。
政治学者として計量分析手法を駆使していた経験を生かし、さまざまな英語試験の定量的な分析を行っている斉藤氏は、「分量の増加トレンドはストップしたものの、難易度は英検準1級程度の実力をもってしかるべき。英語4技能を2技能で測ろうとする特徴ある出題なので、時間をかけて本格的な英語運用能力を養成してほしい」と語ったのち、「データは語る 共通テストの傾向と対策」と題して説明。
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「入試英語の難しさは何で決まるか」という点については、「英語そのものの難しさ」と「設問による難しさ」があると述べ、前者の要素として、分量、語彙、背景知識、設問の4つを示した。本講演ではおもに分量と語彙の観点から見ていくとして難易度を分析。1976年に始まった共通一次試験以来、46年間の英語試験を分析してきた成果から、今年の試験について難易度を比較し、その変遷を解説した。
今回も各年の試験について、テキストに含まれる単語がCEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠:言語能力の習得レベルを測るための国際的な指標)のどのレベルに相当するか、英単語の難易度分析サイト「Text Inspector」を使って分類。これによると、昨年の2024年の共通テストは80分の試験時間でリーディング6,233語が出題され、1分あたりの英単語処理速度が77.9語だったのに対し、今年の2025年は5520語、同69.0語と昨年に比べて減少に転じたため、「2021年に共通テストに変更されて以来、毎年分量が増える傾向にあった中、昨年が分量のピークだった」と指摘した。
※参考:1989年の共通一次の試験は、100分の試験時間でリーディングの総英単語数2,728語 1分あたりの英単語処理速度は27.3語
ただし長期スパンでみると、共通一次試験、センター試験の時代から語数が増えていき、2021年に共通テストへの変更に伴い一気に増加。その後も増え続けて今年は初めて減ったものの、共通テスト初年に比べると若干多いという。リスニングの語数は放送台本が1,829語、印刷配布621語と例年並みだったものの、初めてリスニング試験が行われた2006年の1,005語、457語に比べるとかなり増えている。
一方で、語彙の難易度はどうか。斉藤氏は、「リーディングにおける難易度別(CEFR)の割合をみると、どの実施年も英検3級レベルの基礎的な語彙が大半を占めているものの、その割合が長いスパンで減っている」と分析。さらに今年の特徴として「英検2級から準1級ぐらいのボキャブラリーが膨らんだ。学術的な語彙が増えた印象がある」とした。
そのため、「今年のリーディング問題を難しいと感じるかどうかは実力によってわかれるところ」と述べたうえで、リスニング問題については例年と比べてあまり大きな変化はないとしながらも、「引き続き分量が多く、スピード感が大切」だと評した。
そして、分析のまとめとして、
生成AI時代になり、アウトプットした文を読むためますます「読む力」が重要になる
共通テストは、英語の「読む」「聞く」「書く」「話す」の4技能を「読む」「聞く」の2技能で測ろうとする試験であり、そうした力を測ろうとする特徴ある出題
量が多い共通テストだが、増加トレンドはストップしておそらくここで安定していく均衡点に入ったとみる
難易度は、筆記試験は英検2級~準1級の間で2級寄り、リスニングも英検2級相当のため、英検準1級相当の実力を付けるべき
と総括。対策としては、「時間をかけて、本格的な英語運用能力を養成することに尽きる」と述べ、「『書く』『話す』練習がいらないというのは誤解であり、英語4技能をまんべんなく鍛えると高得点をあげることができる」と強調した。
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速読力は2倍で ライティング力も問われる
続いて、J PREP桂氏が「試験分析と今後の対策について」と題して、より試験内容に踏み込んだ定性的な分析を解説した。
桂氏は、まず今年度から始まった新課程入試について、その背景を紹介。文部科学省による新学習指導要領では、形成すべき資質・能力の3つの柱として、これまで中心であった「知識・技能」に加えて、「思考力・判断力・表現力」および「人間性・学びに向かう力」を据えており、共通テストの英語試験もただ文法の知識を問うものではなく、「より表現力や考える力を問う出題に変わってきている」とその変化を指摘した。
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次に、具体的な英語試験の内容について分析。今回は着眼点として、1)総語数、2)出題形式、3)文法の扱い、4)注目すべき問題 の4つのポイントをあげてそれぞれ解説した。
1)総語数
桂氏は、5年連続増加傾向にあったが、リーディングで今年初めて700語ほど減少した点を指し、「総語数の増減は読む速さに関わってくる」と指摘。桂氏によると、WPM(1分間に読める単語数)は、日本の中学生は平均50WPM、高校生は75WPM(ネイティブスピーカーは300~400WPM)。2025年共通テスト英語を高校生平均の75WPMで読んだ場合、5,520語読むのに73分かかってしまい、到底間に合わないという。「倍速の150WPMで読むとリーディングに約37分、これにリスニング放送時間と回答・考える時間が加わって約80分になる」「共通テストで満点を取るには、日本の平均的な高校生の倍ぐらいのスピードで読める力が必要」と述べた。
2)出題形式
小問題がなくなり、大問のみ8問構成になったことと、2022年発表の新たな出題形式の問題が出されたことに言及。後者は、ライティングを強く意識した問題となっており、複数の資料を参照しつつ自分の意見をまとめる力が問われたとし、「リーディングの中で疑似的なライティングをさせている。この対策としては、きちんとしたアカデミックライティングを学ぶ必要がある」と指摘した。
3)文法
センター試験から共通テストに変わり、文法という項目はなくなったものの、「文法そのものが読解問題に組みこまれている」という。「量が多い文章を速く読むためには、文法知識に基づいて正しく解釈できる力が不可欠」だとし、具体的に今回の試験では、分詞構文や付帯状況のwith、他動詞の目的語が直後に来ずに副詞が挿入されているもの、too~to構文、二重否定といったものがあったとした。「文法セクションそのものはなくなったが、詳細かつ正確な文法知識は変わらず問われており、引き続き大事にしてほしい」と強調した。
4)注目すべき問題
共通テストの特徴として、「意見と事実を区別させる問い」「文章の内容を言い換えるパラフレーズ」がよく出てくるという。今回の試験からは、「頭の中でぱっと声が浮かんだ」という表現を「テレパシー」と言い換える問題を例に挙げ、本問と設問をよく読んで「文字そのものを取り出すだけでなく、それが何を指しているのかを理解し、自分で咀嚼する作業が求められる」と語った。さらにリスニングについても、「音声に従ってエビデンスを基に冷静な判断が求められる問題が出ていた」と分析した。
桂氏は最後に、こうした試験内容に対する効果的な対策として、「新課程の共通テストは英語運用能力を非常に大事にした試験であるため、実際に英語を使う経験をしてきた生徒にとって解きやすい」と指摘。そして、J PREPの生徒は特別に共通テスト対策はしていないものの、昨年の共通テスト英語のリスニングでは満点が多く、リーディングでも最高96点を取っていると紹介。平均点もコースによるものの、全国平均より20~40点も上回っており、普段の授業のみで本格的な英語運用能力を培っていると語った。「本質的な勉強をしている生徒は難なくクリアできる。小手先のテクニックではなく、大学・社会できちんと使える道具としての英語を身に付けるのだという意識で取り組んでほしい」とエールを送った。
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リスニングが引き続き重要、情報処理能力を高めるべき
続いて、Tom McCormack氏が「英語母語講師から見た大学入学共通テスト英語試験の特徴」を解説。McCormack氏はおもに、1)今年の試験におけるサプライズ、2)情報処理、3)注意すべき問題、4)今後の試験のヒント の4項目について説明した。
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1)今年の試験におけるサプライズ
McCormack氏は、「共通テストが始まって5年目となったが、毎年サプライズがある」「事前に出題されそうなテーマやトピックを予想してみたものの、すべてをカバーしきれなかった」といい、「こうした不意打ちのような問題には、生徒が総合的に高い英語力を身に付けていなければ対応が難しい」と述べた。さらに出題形式については、桂氏も触れていたように「ライティングスタイルの設問が多かったことも驚きのひとつだった」とし、J PREPではこうした問題に日ごろから取り組んでいると語った。サプライズがあった一方で、リーディングとリスニングの得点配分のように変わらないものもあり、「リスニングは引き続き非常に重要」「掲載されているイラストや図、グラフの多さも変わらず、これには生徒の注意を引き、混乱させる目的がある」と指摘した。
2)情報処理
続いて、脳において対象言語でどのように情報を受容・処理・保存・使用するかといった認知メカニズムを指し、carという単語を例に挙げた。認知の方法には2パターンあり、ひとつはcarという言葉からそのまま「車の画像・心象」を呼びおこすか、あるいは母語の車という言葉に置き換えてから、「車の画像・心象」に行くかのどちらかだとし、後者は前者よりはるかに遅く、「脳内で英語から日本語に翻訳し続けることで多くの時間を失っている」という。そのうえで、情報処理の仕組みについて触れ、「耳や目から入力された情報はいったん感覚的な記憶に入り、そこで注意を払うことでワーキングメモリに入り、練習を積み重ねることで長期記憶に定着する」「外国語の学習で重要なのはワーキングメモリと長期記憶の相互作用である」とし、「練習量を多くすることでこれらのプロセスが早くなり、情報処理能力が高くなる」と述べた。
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3)注意すべき問題
今回の共通テストにおける大問1を例に、「質問を最初に読むと聞かれている条件を把握できるため早く解答できる」と指摘。「そうすれば全文を読む必要がなく、時間を大幅に節約できる」と述べ、これも2)で触れた情報処理のひとつだとした。また、リスニングにおいても、会話文から条件を聞き取り判断をする必要のある問題が出たと紹介した。
4)今後の試験のヒント
個々の単語が聞こえなかったり意味が理解できなかったりする場合は、IPA(音声記号)や品詞の学習、ディクテーションやシャドーイングを推奨。情報過多の場合は、注意すべきものを聞き取る練習や、本物の英文パンフレットやWebサイト、ブログといった、さまざまなテキストを多読することを勧めた。また、時間が足りなかった生徒には、時間制限付きのリーディングや、倍速でのリスニング、何度も読み込むことなどを推奨した。
McCormack氏は、「J PREPには、こうした実践ができるようデザインされた素晴らしい教材がある。さらに、クラスメイトにも刺激を受け、英語で話したり、ポッドキャストやニュースを聞いたりするようになる」といい、生徒ひとりひとりの語学学習をサポートしていくと語った。
リアルの環境で英語を使うことが大事
最後に、視聴者から寄せられた質問に対する応答が行われた。
「ネイティブと話した方が良いか」「J PREPで共通テストに対応可能か」について
「J PREPでは共通テスト自体の対策はしていないものの、どのコースでもオールイングリッシュの訓練を行い4技能を磨くため、共通テストに役立つ」と、このセミナーの司会を務めた矢島氏が返答。また、「共通テストは非ネイティブによる英語も含まれるので、母語話者にこだわらず、友達や先生と英語で話す、独り言を英語でいうなど、リアルな環境でできるところから英語を使うことが大事」とアドバイスした。
「音読の効果」について
斉藤氏は「バランスが大切だが、基本的な例文などは音読、特に正確な音声で読んだ方が良い。正確な母音・子音で読むことをはじめ、1センテンスを英語のリズムで読めるようになることも重要。文章を暗唱する練習も効果がある。ひとつの練習方法にこだわらず、先生に指示を仰ぎながら上達段階に合わせて練習メニューを組んでいってほしい」とアドバイス。また、桂氏は「音読すると英語を読む速さがあがる。また、どこで意味を取れていないかすぐわかるので、コーチ役がいるところで音読すると良い」などと述べた。
「わからない単語の推測方法」について
斉藤氏からは「単語力を高めることが第一だが、そのうえで、接尾語・接頭語のパーツに分けて単語を考える習慣をつける。成り立ちを理解することが助けになる」、矢島氏からは「パラフレーズされていることも多いので、言い換え表現に気付く」、McCormack氏からは「前後の品詞についてどんな意味をもっているか分析する」などの具体例があげられ、大盛況のままセミナーは幕を閉じた。
その後も使える本物の「英語力」が試される新課程共通テスト
新学習指導要領に対応した初の共通テストとなった今回、英語試験は以前よりもさらに「英語の実践的な運用能力」が求められる内容となったようだ。分量の増加は前回でピークとなりそうだが、それでも分量が多い試験であることは変わりなく、英語を当たり前に使い、即座に意味を理解し、アウトプットする能力が引き続き求められるだろう。
それはすなわち、「テスト用」の付け焼刃でなく、その後もずっと使える本物の英語力が試される試験になってきたということ。総合的な英語運用能力を磨くことができるJ PREPにますます期待がかかる。
世界に通じる英語塾「J PREP斉藤塾」