最先端の研究と手厚い教育を兼ね備えた青山学院大学理工学部。神奈川県相模原市にある広大で美しいキャンパスで、学生たちは自身の研究に没頭。大学院への進学者も5割を超える。
前回の理工学部・黄晋二学部長と学生へのインタビューに続き、今回は世界トップクラスの研究実績を誇る物理科学科の下山淳一教授、機械創造工学科の菅原佳城教授と大学院生に話を聞いた。
青山学院大学理工学部
・下山淳一教授…理工学部 物理科学科
・遠藤淳さん…大学院理工学研究科 機能物質創成コース 修士課程2年(下山研究室)
・菅原佳城教授…理工学部 機械創造工学科
・一宮遼太郎さん…大学院理工学研究科 機械創造コース 修士課程1年(菅原研究室)
※学年、所属学科、研究室はインタビュー当時の情報
21世紀にもっとも注目される超伝導の研究は世界トップクラス
--下山研究室では超伝導の分野で世界トップクラスの研究が行われているとのことですが、なぜ科学界でこれほどの注目を集めているのでしょうか。
下山教授:超伝導とは、電気の抵抗がゼロになるという特殊な現象を指します。たとえば、普段使っている電線などにも電気の流れに対する抵抗があり、これにより熱が発生することでエネルギーの一部が失われています。ところが、超伝導体では失われるエネルギーが完全にゼロになり、極めて効率的に大電流を流すことができるという点で、その研究成果に大きな期待が集まっているのです。現状ではマイナス200度程度の極低温まで冷やさなければ使えず、もっと使いやすい超伝導体や材料を開発する研究が世界中で進められていますが、それだけにやりがいと夢のある分野だと言えます。
--超伝導は社会のどんなところで使われていますか。
下山教授:電気抵抗がゼロというもっとも目立った性質は、医療現場で使われるMRI(磁気共鳴画像装置)やリニアモーターカー、最近では送電ケーブルにも使われています。身近なところではJR中央線の「き電線*」にも導入され、省エネ効果が高く評価されています。私たちの研究室では、このような優れた性能をもちながら、安価で社会に普及できる超伝導材料の開発に取り組んでいます。
*き電線(饋電線):鉄道の架線に電力を供給するために、おもに架線と並行して設けられる電力線
--下山研究室では、どのような超伝導材料を開発しているのですか。
下山教授:NMR(核磁気共鳴)という分子の構造や動きを分析するための装置は、医療現場で病気を発見するMRIにも使われているのですが、非常に大きく、かつ高価であることが課題です。そこで私の研究室では、超伝導材料を使ってNMRの磁場を強くしたり、機械を効率良く動かしたりする方法を研究し、NMRの小型化・低コスト化の実現を目指しています。

--大学院生の遠藤さんは、下山研究室の一員としてそのプロジェクトに関わっているのですね。
遠藤さん:はい。私が担当しているのは超伝導バルク磁石の研究です。わかりやすく言うと、強力な磁場を閉じ込められる塊状の超伝導体のことで、NMRの小型化への応用も期待されています。材料の混合から焼成、結晶の成長、最終的な加工や測定まで一貫して取り組むので、直径数センチのサンプルを1個作るのに2か月程度かかることもありますが、狙いどおりの性能が得られたときにはとても達成感があります。
モノを思いどおりに動かす技術で社会課題の解決を目指す
--菅原研究室が専門とする機械制御工学は、どのような研究を行うのですか。
菅原教授:機械制御工学とは、車や機械、ロボットなど、さまざまなモノを思いどおりに動かすための研究です。物理の法則にしたがって、動きを数式で予測、制御できるようにするのです。
その中でも、私の研究室ではモノが揺れたり曲がったりする「柔らかさ」を考慮しながら、どうやって正確に動かすかを研究しています。物体の特性や外部環境を加味したうえで、モノの動きを正確に予測するための運動方程式を考え、プログラムを組んで、コンピュータ上でシミュレーションしています。
--機械制御工学は、社会のどんなところで使われていますか。
菅原教授:たとえば、ちょうど良い速さでピッタリの位置に止まるエレベーターやバランスよく飛ぶドローン、家の隅々をきれいにするお掃除ロボット、快適な温度に調節してくれるエアコンなど、機械制御工学は日常生活をスムーズに行うためのあらゆる場面で活用されています。一方、私の研究室で行なっている「柔らかさ」という要素はまだ解明できていないことが非常に多い分野で、その分取り組む意義も大きいと感じています。

--菅原研究室は宇宙の軌道上で動く宇宙機やロボットアームなど、機械制御に関する開発を進めているとのことで、前回の記事では4年生の稲葉さんよりロボットアームを取り付けたドローンの制御方法に取り組んでいると伺いました。大学院生の一宮さんはどのような研究をしていますか。
一宮さん:私は、スペースデブリ(宇宙ゴミ)を網で捕獲する宇宙機のシミュレーションの作成に取り組んでいます。網は柔らかく動きの制御が難しいものですが、さらに宇宙空間は無重力で実験もできないため、コンピュータ上での運動方程式に基づくシミュレーションが頼りです。特に、網とスペースデブリが接触したときにどういう挙動を示すのかはまだ解明されておらず、さまざまなパラメータで実験とシミュレーションの妥当性を検証しています。
--世界中で宇宙開発が推進される中、さまざまなモノが宇宙空間で思いどおりに動かせる技術の開発には期待が高まりますね。
一宮さん:そうですね。スペースデブリは今後必ず解決しなければならない大きな課題ですが、地球上とはまったく異なる環境で、起こり得ることをすべて数式で予測することの難しさと面白さを実感しています。将来的には、こうした解析を生かして、宇宙空間での安全な作業や持続可能な環境の整備に貢献したいと思っています。

青山学院大学理工学部ではなぜ学生が成長できるのか
--遠藤さん、一宮さんともに高度な研究に取り組まれていますが、青山学院大学理工学部を選んだ理由、また研究室を選んだ経緯について教えてください。
遠藤さん:私は理学と工学の両方を学べること、そして経済的な負担を少しでも減らすために家から通えることから青山学院大学の理工学部を選びました。物理科学科では、基礎から応用まで理工系の学問を幅広く学べるカリキュラムがあるのですが、その中でも下山先生の授業が面白くて印象に残ったこと、手を動かす実験が好きだったこと、そして実際に材料を扱う研究に携われることが魅力で、下山研究室に入りました。
一宮さん:私は小学生のころから宇宙に関心があったので、JAXAと連携していること、専門的な設備が充実していることに魅力を感じて入学しました。機械創造工学科では、1・2年生でしっかりと四力学などの基礎を学びつつ、3年生以降に応用的な学びへ進むことができます。その中でも数値解析や運動方程式への関心が高まり、元々興味のあった人工衛星や宇宙船、宇宙ステーションといった宇宙機構造を扱えるということで菅原研究室を選びました。
--研究室に配属されると、毎日どんな生活になるのでしょうか。
遠藤さん:私の所属する下山研究室では、週1回のミーティングや会食を兼ねた研究経過報告会があり、それ以外は基本的に自由です。研究室はいつでも利用できるので、朝型・夜型など自分のスタイルにあわせて各自研究を進めていますが、1人で黙々と作業するだけでなく、助教の先生や研究室の仲間と頻繁に情報共有も行っています。多様なテーマに取り組む仲間がいるからこそ、彼らの実験から得られた知見を自身の研究に応用できることもあります。
一宮さん:菅原研究室も、基本的には週1回の進捗報告会以外は各自が自由に研究に取り組んでいます。私の場合は実験装置の設計をしたり、解析をしたりするほか、同じ研究室に所属する先輩や同期と日常的にディスカッションもしています。研究での悩みを相談し、先輩や同期からアドバイスをもらったり、新しい発想を共有したりできるのは心強いですね。
--4年生で研究室に配属されてから自分はどのように成長したと感じますか。
遠藤さん:発表のためのプレゼン資料の作成、学会発表、後輩への指導などを通じて、表現力、創造力、協働力やコミュニケーション力といった学問以外の力も身に付いたと感じています。専門的な知識についても、自分の研究内容を人に説明することを通して理解が深まり、自信につながりました。
一宮さん:私は今、3年生までに学んだ理工学の基礎がしっかりと研究に生かされていることを実感しています。研究では、失敗の原因を分析し、改善策を考えるというプロセスを重ねるうちに、自分で考えて動ける力が身に付いたと思います。

--教員の立場から、このような学生の成長を支える青山学院大学理工学部ならではの強みはどこにあると感じますか。
菅原教授:基礎教育の充実は大きな強みだと思います。青山学院大学の理工学部では、3年生の終わりに実力試験を実施し、各学科において習得してきた基礎科目を総復習します。これは他大学ではあまり見られない取組みで、学生にとっては試練ですが、その分、研究に進むうえでの基礎力がしっかりと身に付きます。この基礎力は、研究で新しい課題に対して取り組むうえで揺るぎない土台となるだけでなく、卒業後のさまざまなキャリアを支えてくれるでしょう。
下山教授:私は20年以上東京大学に奉職していましたが、青山学院大学は研究用の電源やスペース、専門の装置など、研究のための環境は申し分なく、さらにこのような広大で美しいキャンパスで過ごすことができ、研究者としてとても恵まれていると感じています。また、学生たちは非常に前向きで、実行力がありますね。
菅原教授:さらに、少数精鋭による教育の質が高いこともあげておきたいですね。理工学部の規模としては決して大きい方ではありませんが、その分教員と学生との距離が近く、丁寧な教育と指導が行き届いているように感じます。素直で吸収力が高く、机上で考えることと実験やモノづくりで手を動かすことをバランス良くできる学生が多いことも、彼らの入学後の飛躍的な成長につながっているのではないでしょうか。
学会発表で専門性を磨き、自信を育む
--研究室での研究にも、学生のさらなる成長につながる仕掛けがあるのでしょうか。
下山教授:学会発表の機会が充実していることではないでしょうか。青山学院大学の理工学部では、大学院生が国内外の学会で発表することはもはや当たり前になっていて、その実績は旧帝大にも引けを取らないレベルです。私大の中では間違いなくトップレベルでしょう。自分の研究成果を堂々と発表し、活躍している先輩の姿を見ながら後輩が育っていく。こうした文化が根付いているので、学生同士が切磋琢磨し、どんどん成長していけるのだと思います。

遠藤さん:私は修士課程2年目ですが、これまでに3回、国内の学会で発表を行いました。今年は2回、海外で行われる国際学会にも参加する予定です。学会の参加には交通費を含めた費用がかかりますが、大学からの補助制度もあり、安心して挑戦することができています。
一宮さん:私は修士課程1年目で、今年の夏に初めて国内学会で発表する予定です。昨年は研究室の先輩が国際学会で最優秀論文賞を獲得したので、先輩を目標に研究に励んでいきたいと思います。
下山教授:学会での発表は、専門家を前に自分の成果を披露するチャンスです。そのため、しっかりしたデータをそろえることはもちろん、国際学会では英語で質疑応答に応じられるだけの十分な準備をしなければいけません。そうした高い専門性を目指すプロセスが、学生を大きく成長させる貴重な機会となるのです。学会での発表経験は、間違いなく学生たちの大きな財産になっているはずです。
研究を通じて身に付けてほしい一生モノの力
--大学卒業後の進路として、学生の皆さんはどのような道を選んでいるのでしょうか。
下山教授:私の研究室では、8割以上の学生が大学院に進学します。大学院生になると、研究の設計から発表資料の作成、質疑応答まですべてを自分でこなすようになります。また、私の研究室でも企業との共同研究を行なっていますが、こうしたさまざまな企業とのつながりが多いのも強みだと言えるでしょう。結果として、企業で研究開発部門をはじめとした専門性の高い部署に配属されやすく、即戦力として活躍できるケースが多いですね。
菅原教授:私の研究室を含め、機械創造工学科の大学院進学率も非常に高く、大学院修了後は電機、自動車、重工、半導体、航空宇宙など、広く製造業の研究・技術開発部門に進んでいます。近年では半導体製造装置の分野に進む学生も増えており、工場の生産技術に携わる人材としても高く評価されています。

--研究を通じて学生にはどのような力を身に付けてほしいとお考えですか。
下山教授:研究は正しくやるだけでは不十分で、工夫して実行することが求められます。計画を立てて進捗を管理し、新しい課題に挑み続ける。わからないことは周囲に聞き、調べ、試す。この積み重ねが、社会でリーダーとして活躍できる人材としての土台になります。4年生から修士課程修了までの3年間を通して、創意工夫して実行する力を培ってほしいと願っています。
菅原教授:もうひとつ大切なことをあげるとすると、それは柔軟さです。研究では想定と異なる結果が出ることも多いのですが、そういうときこそ、自分のやってきた方法に固執するのではなく、いったん手放し、目的に立ち返って判断する力が求められます。真面目にやることと目的に対して誠実であることは、似て非なるもの。柔軟な対応力と広い視野を育んでもらえたらと思います。
「面白そう」「楽しい」という気持ちが原動力になる
--最後に、進路に悩む中高生やその保護者に向けてメッセージをお願いします。
遠藤さん:大学や学部・学科選びは「やりたいこと」から決めるのが一番だと思います。難しいテーマに挑戦するときほど、自分の中の「やりたい」「楽しい」という気持ちが原動力になるからです。
一宮さん:私も、自分の興味や学びたい気持ちを大切にして学科を選びました。大学で学んでいくうちに興味や関心はだんだん具体化されていくので、最初は「これ、面白そうかも」という気持ちを信じて進んでほしいです。
菅原教授:私自身も子をもつ親として、保護者の不安や心配はよくわかります。だからこそ今、子供自身が進路に悩むことそのものが大事なのだとお伝えしたいです。悩みながら調べて、相談して、自分の興味あることが学べる場所を自分なりに納得して決めていく。その過程が、大学でさらに学びを深めていく覚悟と主体性を育てるのだと思います。
下山教授:大学入試はゴールではなく、やりたいことを実現するための通過点です。理工系では学科だけでなく、どの研究室に進むかがその後の進路にも影響します。進路選択をする際は、自分が本当に興味をもてる環境か、やりたいことができる研究室があるかどうかを調べてみてください。オープンキャンパスや中高生向けのイベントなど、大学の研究室の雰囲気を知る機会に足を運び、自分が夢中になれる場所を見つけてほしいですね。

インタビュー後に見学させてもらった研究室では、広いスペース、たくさんの専門的な装置や材料、試作品の数々に驚くとともに、研究に取り組む学生たちの和気藹々とした雰囲気が印象的だった。7月13日(日)には相模原キャンパスでオープンキャンパスが開催され、理工学部の模擬授業や研究室公開なども行われる。ぜひ、世界トップクラスの研究現場を、自分の目で確かめてほしい。
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