「The Japan Times Young Leaders Project 英字新聞プロジェクト(以下、英字新聞プロジェクト)」は、本格的な英字新聞の制作を通して、英語での発信力・論理的思考力・プレゼンテーション力を育む、プロジェクトベース型の学習プログラムだ。ジャパンタイムズ出版が「グローバルに羽ばたく未来のリーダーに必要な素養の育成」を目的に、中学校・高等学校と連携し、記事のテーマ選定から取材、執筆、紙面のデザイン、発行までを一貫して指導・支援している。
共立女子中学高等学校では、2016年に「英字新聞プロジェクト」のプログラムを導入。中学3年生から高校2年生までを対象に希望者を募り、毎年オリジナルの英字新聞『Kyoritsu Times』を制作・発行している。初年度は有志12名でスタートしたが、年を追うごとに参加希望者が増え、2025年度には38名が参加。今では、同校を代表する課外活動の1つとなっている。
【インタビュイープロフィール】
竹村まりこ先生:共立女子中学高等学校 国際交流部・英語科教諭、「英字新聞プロジェクト」担当教員
趙楚琳さん:共立女子高等学校3年生、2024年度 編集長
西野瑞葉さん:共立女子高等学校3年生、2024年度 副編集長
ショーナックだりあさん:共立女子高等学校2年生、2025年度 編集長
※役職・学年はインタビュー当時の情報
発信型の英語教育「自分の言葉で伝える」経験を積む
--2016年度より中学3年生から高校2年生までの希望者を対象に「英字新聞プロジェクト」を実施されているそうですね。本プロジェクトを始めた背景やきっかけを教えてください。

竹村先生:本校ではもともと、発信型の英語教育に力を入れてきました。もちろん、文法や受験対策も大切にしていますが、それだけでなく、話す形でも、書く形でも構わないので、「自分の言葉で伝える」という経験を積むことが何より重要だと考えています。生徒が自分の思いや考えを英語で表現できる場を、もっと増やしていきたいと考えていたころ、ジャパンタイムズ出版の「英字新聞プロジェクト」を知り、他社のプログラムと比較したうえで導入を決めました。初年度は、希望者12名でスタートしました。
--年々参加者が増えているということですが、参加する生徒にはどのようなお子さまが多いですか。
竹村先生:初年度、生徒にとって「何をするのかよくわからない」「Japan Timesのプログラムは敷居が高そうだ」といった印象があり、手を挙げるには相応の勇気と意欲が必要だったと思います。初年度の12名は、そもそも英語に得意意識をもっている生徒が中心でした。ジャーナリズムに関心をもっている生徒もおり、校内新聞を制作する新聞委員と兼ねて活動していた子もいましたね。
ジャパンタイムズ出版による手厚いサポートのもとで、毎年1号ずつ『Kyoritsu Times』を発行し続けると、校内外での認知も高まり、「インタビューをしてみたい」「書くことに挑戦してみたい」といった好奇心から応募する生徒のほか、「昨年の先輩に誘われた」「紙面を読んで面白そうだと感じた」といった理由で参加する生徒も増えてきました。良い意味で、参加へのハードルが下がってきたと感じています。導入当初は4面でしたが、今は参加者が増えたので8面で制作しています。
--本日お集まりの生徒の皆さんの「英字新聞プロジェクト」に参加しようと思った経緯を教えてください。
趙さん:もともと英語が好きで、「英語のスキルを使って何かを発信したい」と考えていました。特に、文字で書くことが好きだったので、新聞というかたちで伝えられる点に興味をもち、中3から高2まで続け、2024年度の編集長も務めました。

西野さん:私は幼少期を海外で過ごし、中学入学当初から「国際的な活動をしたい」と思っていました。ただ、2020年の入学時からコロナの影響により、海外留学などが難しい状況が続きました。思い描いていた学校生活との乖離に悩んでいたときに、「中3から英字新聞プロジェクトに参加できる」と知り、参加を決めました。学内でできる国際的な活動であることや、インタビューなどを通して自身で得た情報を英文で伝えるという点に魅力を感じました。
ショーナックさん:私は高1のときに、前年にプロジェクトに参加していた友人に誘われました。「英語で原稿を書くのは大変そう…」と少し不安に思いましたが、英語は嫌いではなく、何より活動が楽しそうだったので、思いきって参加を決めました。2年目となる2025年度は編集長を務めています。
企画立案・校閲・校了まで、英字新聞のプロが伴走
--年度が変わり、まず編集部を結成されるとのこと。企画立案や発行までの流れを教えてください。
竹村先生:毎年、新年度が始まるとすぐに、中3から高2を対象に募集を行います。4月末には初回の顔合わせを実施し、その場で編集長・副編集長、グループ分けを決定します。1グループで1面を担当します。基本的には生徒主体で進行しますが、各グループに教員が1人ずつ入り、サポートを行います。
5月中旬には、ジャパンタイムズ出版の新聞記者による「英文記事の書き方講座」(50分×2コマ)を実施し、記事のテーマ設定や取材方法、英文ライティングの基本を学びます。その後、6月には「編集・企画会議」が行われ、具体的な企画内容や記事の構成をグループごとに検討していきます。
取材活動はおもに夏休み中に行い、各チームが執筆した英文原稿を取りまとめ、初稿としてジャパンタイムズ出版に提出します。そこからプロのネイティブエディターに校閲をしていただき、見出しや表現に関する丁寧なフィードバックをしていただきます。それをもとに修正を加え、ブラッシュアップしていきます。
9~10月には「紙面レイアウト研修」(50分×2コマ)を実施し、レイアウト作業を行います。さらに、11月には紙面全体に対する「フィードバック研修」(50分×2コマ)があり、改善点を取り入れたうえで最終調整を行います。校了後はジャパンタイムズ出版に印刷を依頼し、12月に完成版が納品されます。印刷部数は希望に応じて選択可能ですが、本校の『Kyoritsu Times』は現在、1万部を発行しています。
--「英字新聞プロジェクト」におけるご自身の役割や担当した仕事について教えてください。
趙さん:このプロジェクトでは、学年や参加年数に応じて役割が変わります。編集長を務めた昨年度は、自分のグループの記事執筆に加えて、他のグループの原稿の添削やレイアウトの確認、全体の進行管理など、幅広い業務に携わりました。
西野さん:高2のときは、趙さんの補佐として副編集長を務め、それと同時に、自分のグループの班長も担当しました。グループ内の私以外のメンバーが「英字新聞プロジェクト」初参加だったこともあり、前年度の経験を活かして、執筆や企画づくりの面でメンバーをサポートしたり、取材のアポイントメントを取ったり、グループ全体を見ながら進行しました。

ショーナックさん:新聞制作そのもの以外に、10月の共立祭(学園祭)で「英字新聞プロジェクト」の制作過程を紹介する発表を行いました。事前にポスターを作成し、当日は私を含む数名で学園祭に来場者した外部の方に向けて取組みを紹介しました。
協働で育む英語力、編集力、そして伝える力
--「英字新聞プロジェクト」において難しかったこと、苦労したことはありますか。
趙さん:2024年度、私たちのグループでは、外国人観光客への街頭インタビューをもとに記事を制作しました。取材は皇居周辺で行い、観光客と思われる方々に積極的に声をかけて、10人ほどにインタビューを行いました。自分の英語が伝わり、返答をもらえたことがとても嬉しく、楽しかったです。
ただ、それを記事としてまとめる段階では、集めた回答をどのよう取捨選択し、構成へ落とし込むかに苦労しました。インタビューでの発言はカジュアルな表現が多く、新聞に適した言い回しに言い換える必要があり、自分の解釈が本当に正しいのか、新聞の文体としてふさわしいか、語彙の選び方に問題がないかなど、迷う点が多くありました。メンバー内でお互いに添削をしたり、意見を出し合ったりして仕上げられたときには、大きな達成感がありました。
西野さん: 中3から高2までの3年間の活動を振り返ると、一貫して「客観的な視点で文章を書く」ことにもっとも苦労しました。普段の英語の授業では、自分の考えや感想を書くことが多いですが、新聞記事では客観的に伝える必要があります。原稿を書いていると、つい自分の意見を交えてしまったり、唐突に専門的な知識が入り、不自然な文章になることがありました。添削を経て、客観的な文章の書き方を知ることができ、とても勉強になりました。
ショーナックさん:私は、2024年度は「共立リーダーシップ」についての記事を担当しました。「共立リーダーシップ」は、本校独自のリーダーシップ育成に関する取組みなのですが、抽象的なテーマなので文章にするのがとても難しいと感じました。内容を具体化するために、先生にインタビューしたり、リーダーシップを学んでいる生徒に話を聞いたりと、自分なりに理解を深めるところから始めました。
また、英字新聞プロジェクトの参加者の中には部活動で多忙にしている生徒もおり、かつ学年も異なるので、打ち合わせや取材のスケジュールを調整するのも大変でした。なかなかメンバーが集まれない状況下で、どのようにコミュニケーションをとるかを考えながらプロジェクトを進めたことも、良い経験になりました。
--「英字新聞プロジェクト」を経て、自分自身でのいちばんの収穫は何だと思いますか。
趙さん:もっとも大きな収穫は、英語を使って発信する力が身に付いたことです。ただ英語で文章を書くだけではなく、「誰に」「何を」「どのように」を考え、伝える力が磨かれたと感じています。また、新聞制作は1人ではできないので、チームで協力しながら進めていく力も培われました。締切りに向けて仕上げる責任感、リーダーシップも育まれたと思います。
西野さん:3年間活動してきた中でもっとも印象に残っているのは、1つのテーマをさまざまな視点から見ることの面白さに気付けたことです。中3から高2までで幅広い学年の生徒が集まっているので、視点や考え方もそれぞれ異なり、結果として記事の内容がバラエティに富んでいて、面白い紙面を作ることができました。
私は中3のときに「共立の過去と現在」、高1では「女子大ビジネス学部の学部長インタビュー」、高2では「高校制服のデザイナー・桂由美先生の人柄」に注目した記事を担当しました。英字新聞の制作に携わることで、共立女子がいかに多くの人に支えられているか、あらためて知ることができたのも良かったです。英字新聞プロジェクトは、英文を書くことを目的にはしていますが、この活動を通して自分の学校をいろいろな角度から掘り下げて知ることができたのは、私としては大きな収穫でした。
ショーナックさん:このプロジェクトでは、中3から高2までの異学年のメンバーが一緒に活動します。年齢や学年に関係なく、それぞれの英語力をもち寄って、1つの目標に向かって協力できたことがとても良い経験になりました。みんなで力を合わせて新聞を作りあげるプロセスが楽しく、やりがいを感じました。

--「英字新聞プロジェクト」を経て、英語力に変化はありましたか。
趙さん:新聞制作の過程で、専門用語や複雑な形容詞などに触れる機会が多く、自然と使える英語の幅が広がったと感じています。海外からの観光客の方へのインタビューを通じて、英語で話すことの面白さを実感し、その後も観光客向けの英語ボランティアに挑戦しました。英字新聞プロジェクトは、自分の世界を大きく広げてくれました。
西野さん:夏から秋にかけて、何度も英文の添削を受けるうちに、ライティングスキルが格段に向上しました。ジャパンタイムズ出版の編集者の方による添削はとても丁寧で、構成や語彙の選び方、自然な表現の方法まで細かく指導していただけます。そうした経験が、英検準1級のライティングにも直結しました。
また、私はもともと英字新聞を読む機会はあまりなく、読んでもよく理解できなかったのですが、今では表現や構成の参考として意識的に読むようになり、読み方の視点も変わりました。
ショーナックさん:自分が書いた英文をプロの方に添削いただける機会は、通常の学校生活では経験できません。プロの編集者・記者の方からのアドバイスの他、グループのメンバーにも自分の英文の間違いを指摘してもらうことで、自分の英語を客観的に見直すことができました。新聞ならではの難しい語彙やフレーズ、文章の書き方を知ることもできて、とても勉強になりました。
竹村先生: 参加した生徒の英検の取得率やスコアを統計的に確認しているわけではありませんが、生徒たちのようすを見ていて、明らかに“英文を書くことへのハードル”が下がっていることを実感しています。
英字新聞プロジェクトでの経験を通して「自信がついた」と感じている生徒が多いということも、大きな成果だと思います。街頭でのインタビューや普段接点のない方への取材は、勇気が要ります。断られることもありますが、対話が成立したときの喜びは、成功体験として記憶に刻まれると思います。
「伝わった」実感が、自信に変わる
--「英字新聞プロジェクト」導入による、学校としての収穫を教えてください。
竹村先生:英字新聞プロジェクトの導入は、私たち教員にとっても大きなチャレンジでしたが、ジャパンタイムズ出版の方々による手厚いサポートに安心して頼ることができるため、心強く感じています。生徒が入学してから卒業するまでの間に、どれだけ多くの経験を積ませられるか。それこそが、学校教育に携わる私たちの使命だと考えています。その点でこのプロジェクトは、英語力の向上にとどまらず、取材・執筆・編集といった一連の実践を通じて、生徒にとって非常に意義深い学びの場になっていると感じます。加えて、その学びが「英字新聞」という目に見えるかたちで残っていくことも、大きな財産です。
完成した新聞は、全校生徒に配布しているほか、中学受験を検討されているご家庭にもお渡ししています。「このプロジェクトに参加したいから共立に進学したい」と言ってくれる生徒も現れ始め、取組みのバトンが次の世代へと受け継がれていることを実感しています。そのバトンを渡して卒業していった子供たちが、自信をもって次のステップへ進んでいる姿も非常に頼もしいですね。
--このプロジェクトでの学びが、教科の授業や日ごろの生活に結びついて役立ったことはありますか。

趙さん: もっとも直結するところでは、やはり英語の授業です。自分の考えを論理的に書く力がつきました。ディスカッションも以前に比べて、論点がずれないように意識できるようになり、上手くなったと思います。こうしたディスカッションの力は大学でも社会でも役に立つと思っています。
西野さん:私はこのプロジェクトがきっかけで、英字新聞を読むようになりました。それまでは、英字新聞は一部のコアな人向けだと思っていたのですが、自分で書く経験を通して、構成や語彙の選び方に興味がわき、今では日本語の新聞と読み比べて表現の違いを楽しめるようになりました。
また、学年の異なる生徒たちと協力して1つのものを作りあげる経験は、学校生活の中でも貴重な学びでした。中3から高2まで、初対面の人も多い中で交流を深め、目標に向かって動くという経験は、将来、社会に出てからも活かせると感じています。
ショーナックさん:このプロジェクトを通して、文章の構成力が身に付いたことが、日常生活においても役立っています。新聞では、論理的で読みやすい構成を意識する必要がありますが、それは英語に限らず、日本語でも同じです。日常的なメールでも、相手に伝わりやすいように構成を考えて書くようになりました。
--「英字新聞プロジェクト」を経て、生徒の皆さんには高校3年生ひいては卒業後、どのような姿を期待されますか。
竹村先生:本プロジェクトに参加した卒業生の中には、その後、新聞社に就職した子もいます。ただ私は、特にジャーナリズムの道に進んでほしいとか、英語に関わる仕事に就いてほしいと考えているわけではありません。それよりも、「うまく伝えられる人」になってほしいと願っています。「伝える」というのは、日本語でも英語でも、本当に難しいことです。文章にして相手がどう受け取るかまで考えながら、言葉を選べる人になってほしい。このプロジェクトでの学びは、そうした力を育てるうえで、生徒たちにとって大きな財産になるはずです。
また、社会に出れば、年齢や立場の異なるさまざまな人たちと協力し、共に何かを成し遂げなければいけない場面が数多くあります。その意味でも、このプロジェクトでの経験は、非常に貴重だと思います。年齢差や立場の違いに怯むことなく、多様な人たちと協力して、より良いもの・ことを作っていってほしいですね。
--ありがとうございました。

日本語で「伝えること」を生業とするライターとして、そして英語好きだったかつての高校生の1人としても、中高時代にプロから紙面づくりの指導を受けられるという「英字新聞プロジェクト」は、なんとも贅沢でうらやましい環境だと感じた。ジャパンタイムズ出版のサポートのもと、発信型の英語教育に力を注ぐ共立女子中学高等学校。生徒たちの卒業後の未来まで見据えた英語教育を提供し続けることの大切さが伝わってくる取材だった。
そして何より「ジャーナリズムや英語という枠にとらわれず、この経験を将来に活かしてほしい」と語る竹村先生のまなざしが、温かくも力強く印象的だった。情報を集め、取捨選択し、自らの言葉で伝える。大学入試や就職活動、社会人生活においても必須とされる、これらのスキルを包括的に身に付けることのできる「英字新聞プロジェクト」が、今後も学校の財産として受け継がれることを願っている。
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