2025年10月19日、リセマムと日本新聞協会の共催によるオンラインセミナー「頭脳王・河野玄斗&入試問題のプロ・後藤和浩&3男1女東大理III合格・佐藤ママに聞く『読む力・考える力』の伸ばし方」が開催された。
わが子の「読む力」と「考える力」をどうすれば伸ばせるのか。保護者にとって切実なこのテーマをめぐり、セミナーの前半では、頭脳王として知られる河野玄斗氏と、入試問題研究のプロ・後藤和浩氏が入試で問われる「読む力」「考える力」を伸ばすための新聞活用術について語った。後半は、3男1女全員を東京大学理科三類合格に導いた「佐藤ママ」こと佐藤亮子氏が、自身の経験と知見をもとに、新聞記事を読み聞かせて子供の語彙を自然に増やす「おしゃべり学習」などのアイデアを披露した。ファシリテーターはリセマム編集長の加藤紀子が務めた。
セミナーには約600人から参加申し込みがあった。抽選で招待された約20人が、横浜にあるニュースパーク(日本新聞博物館)のライブ配信会場で観覧した。
「子供の考える力を伸ばすための新聞活用術」河野玄斗さん×後藤和浩さん

「知識を覚える」から「考えを問われる」入試問題に変化
--最近の教育や入試の変化をテーマに新聞の新しい活用法を考えていきます。まずは後藤さん、近年の入試問題の変化について教えてください。
後藤氏:はい。近年の入試問題を見ると、知識中心の一問一答型から「なぜそう考えたのか」が問われる問題へとシフトしています。学習指導要領の改訂で文部科学省が「思考力・判断力・表現力」を重視する学力観を打ち出し、2021年に大学入学共通テストが新設されました。こうした「考える力」を重視する流れの中で新聞は非常に優れた題材になっています。
河野氏:共通テストでも、知識だけでなく、その場で資料を読み取って考える問題が出題されていますよね。
--入試問題に新聞記事が登場することも増えていますね。
後藤氏:たとえば2025年度のドルトン東京学園(東京都調布市)中等部の入試問題では「コメをめぐる政策の歴史と生産量・消費量の推移」をテーマにした問題文に新聞記事の抜粋が使われています。減反政策に関する図を読んで思考を整理し、最終的には「食生活について考えたことを200~300字で書きなさい」というもの。小学生にはなかなかハードルの高い文字量ですが、学校側はそれだけ「自分の言葉で考えをまとめる力」を重視しているということなんですよね。
また、面白いのが海城中学(東京都新宿区)の社会の問題です。4つの新聞紙面の切り抜きを並べて「この中で1面はどれか」を答えさせる内容です。まさに「家庭で新聞を読んでいますか?」「日ごろから世の中に目を向けていますか?」というメッセージが入試問題に込められています。

新聞を読むことは「考える習慣」に直結する
河野氏:こういった問題は「新聞」を題材にしていながら、知識を問う問題ではないという点が示唆的ですよね。単に記事を読むだけでなく、日常生活の中で考える習慣をつけてほしい…そんな意図が込められています。学校や塾で習ったから解けるのではなくて、「この記事、どう思う?」「こういう意味なんじゃない?」と親子で話すような日常のやりとりの延長線上に答えがある。そう考えると、新聞を読むってただ情報を仕入れるだけではなくて、「考える習慣をもつこと」に直結します。それを普段から自然にできている子供ほど、入試で求められる力が身に付いていくんじゃないかと思います。
実際、東大入試でも単に知識があれば解けるタイプの問題はほとんど出ません。地理歴史であれば、新しく発見された史料などを示して「どんな意味をもつのか」「これまでの歴史観にどう影響するのか」といったことを自分の言葉で論述する必要がある。大事なのは「流れ」をしっかりと理解しているかどうかで、知識を覚えるだけで通用する時代ではないんですよね。
後藤氏:2025年度の森村学園(神奈川県横浜市)中等部の入試問題では、新聞記事を引用しながら「逮捕とは罪を犯した人を捕まえること」という説明が正しいかどうか、弁護士のお父さんが娘に問いかけるといった形式の出題がありました。
河野氏:これは「無罪推定の原則」を題材にしているんですね。裁判で有罪とされるまでは、その人はあくまで“罪を犯した疑いのある人”にすぎない。逮捕というのは、逃げるおそれがあるから身柄を拘束するものであって、その時点では“犯罪者”ではない。
後藤氏:その通りです。この入試問題では、設問を解き進めていくと、逮捕の時点では“犯罪者”ではないという考え方をひとつひとつ整理させるような構成になっているんです。最後まで解き進めると「罪を犯した人を捕まえる」と「罪を犯した疑いのある人を捕まえる」違いって何だろう? ということを、ちゃんと理解して自分の言葉で説明できるかを評価できるように作問されているんですね。私はよく「入試問題は、その学校の“0時間目の授業”だ」と話しています。
河野氏:こういう問題って、教養も身に付くと同時に“論理的な思考力”も試されていると思います。罪を犯した人は逮捕される…その通りなんですが、逮捕された人が必ず罪を犯しているとは限らない。数学の「十分条件と必要条件」に似ています。こうした思考プロセスを理解するのは、子供からしたら難しい。でも日ごろから新聞を読んで考えていれば「AならばBでも、その逆が成り立たないこともある」という理屈がスッと頭に入ると思うんです。入試問題だから、新聞だからと切り分ける必要はなくて、論理的なものの考え方というのは共通しているんですよね。
「知らないことを知るのは面白い」と親が感じる姿を見せる
--新聞を通じてさまざまな題材に接することで、論理的なものの見方が自然と養われるのですね。では、どうしたら子供が新聞に興味をもってくれるのでしょうか。
河野氏:勉強も新聞を読むことも同じですが、いきなり「毎日読みなさい」と押し付けてしまうと子供は嫌になってしまいます。まずはできることから取り組んで、気づいたらレベルアップしているのが理想です。たとえば、子供がサッカー好きならスポーツ面から読む。最初はそれで十分です。そうやって3か月ほど経てば新聞を開くことが習慣になり、「気になる見出しだけ読んでみようかな」と、少しずつ新聞に触れる時間が増えていくと思います。

後藤氏:ポイントは、親が新聞を手に取り「なるほど、こういう考え方もあるんだ」と楽しむ姿を見せること。よく親御さんから「子供の勉強を見るときは、自分がすべてわかっていなきゃいけないと思ってしまう」という声を聞きます。でも、それは大きな誤解です。大切なのは子供と一緒に学び、「ああ、そうなんだ」と発見する体験を共有すること。新聞を読むときも同じで、親が「知らなかったことを知るのは面白い」と感じる姿を見せることが、子供の好奇心や考える力を育てるいちばんの近道だと思います。
ゲームもYouTubeも消費ではなく思考の時間に
--河野さんのご家庭では、親御さんはどのように接していたのでしょうか。
河野氏:うちは基本的に好きなことを自由にやらせてくれる家庭でした。ただ、「やるなら高品質なものをとことんやり込む」という方針は徹底していたと思います。ゲームも禁止するのではなく、大人向けのロールプレイングゲーム(RPG)を攻略本とセットで与えられていました。子供って、攻略本を隅々まで読み込みますよね。そうやって自然と活字に触れ、漢字も覚えました。さらに、ゲームを本気で攻略しようとすれば「この敵の弱点は?」「どうすれば勝てる?」と、戦略的に考える習慣が身に付く。
結局、題材は何でも構わないんです。子供たちはきっと、これからの人生でゲームやYouTubeに何千時間も触れることになるでしょう。だったらその時間をただの消費で終わらせず、「1時間あたりの思考量」を少しでも増やすことが大切。ただ受け身で追うのではなく、「なぜこの展開になるのか」「もっとこうしたら良くなるのでは」と頭を使って能動的に考える時間に変える。その積み重ねが「脳の筋肉を鍛える」ことにつながります。
--ゲームもYouTubeも新聞も「頭を使う材料」になるのですね。
河野氏:特に新聞には子供と話してみると面白いトピックがたくさん。たった1日1題でも1年間続ければ365個の話題に触れられます。子供は、「やらされている」と感じるとしんどくなります。そのときは「ふーん」で終わってしまっても、後から授業などで同じ話題に触れたときに、「あのときのことだ」と気づく瞬間があります。実は、こうした“再発見”の瞬間こそが、脳が活性化し知識として定着するんです。
後藤氏:こう話していると、あらためて新聞の力を感じますよね。私たちも過去問の解説を書くときに過去の新聞記事を確認することがあります。それは、新聞記事はたくさんの人がチェックして事実確認が徹底されている信頼性の高いメディアだからです。情報があふれ「何が正しいのか」を見極めるのは難しい時代だからこそ、新聞のように裏付けの取れた情報がきちんと載っていて、質の高い内容に触れられる媒体はとても貴重。河野さんが言われた「高品質なものに触れる」という点でも、新聞はまさにそれです。お子さんの学びを深めるきっかけとして、ぜひ新聞を役立ててほしいと思います。
新聞の試し読みはこちら新聞記事を読んで聞かせる「おしゃべり学習」が語彙や読解力の基礎に…佐藤亮子さん

新聞と会話がある、佐藤家の団らん時間
--佐藤さんが保護者からよく相談を受ける内容の中で、もっとも多いのはどんなことでしょうか。
佐藤氏:やはり多いのはスマートフォンとの付き合い方ですね。今や小学生や幼稚園児にとっても、スマホやタブレット端末は常に手元にある存在です。ちょっと見るだけのつもりがあっという間に時間が過ぎてしまい、その間勉強がまったく進まない。知識や基礎学力を身に付けるのは一定の勉強量が必要です。たとえば100時間のうち50時間をスマホに使ってしまう子と、すべてを勉強に使う子、どちらの学力が伸びるかは明らかですよね。私のスタンスとしては、少なくとも18歳まではスマホやデジタル機器に関しては少し厳しく接する方が良いと思っています。
--時間は有限で、ひとりひとり平等ですものね。親も子供も自分のスマホやタブレットを見ていて、家庭内の会話が減っているという話もよく聞きます。佐藤家はリビングで新聞を広げて、佐藤さんがお子さんに記事を音読していたそうですね。
佐藤氏:そうですね。たとえば8月になると新聞が戦争の話を取り上げます。投書欄の戦争の話は毎年読んでいました。勉強が大変でも今こうして学べるのは日本が平和だからだと。「日本の新聞がこの時期に戦争の話を取り上げなくなったら日本は終わり、どこかに逃げなさい」なんて子供たちに言うと、「どこに逃げれば良いの?」と聞かれたりして。結局は日本がいちばん平和で、平和は守っていこうという話になるんです。
--ご自身の新聞にまつわる印象深いエピソードはありますか。
佐藤氏:私自身は、両親が新聞好きだった影響もあり、小学校3年生のころから新聞を読むようになりました。学校から帰ってくると2時間かけて朝刊を読み、夕刊が届くとまた読む、という日常でしたね。その中で、戦争で苦労され70代になってから夜間中学に通い字を習っている方の投書を目にしたことがあるのですが、大人になるとひらがなを習得するにも時間がかかると書いてあって。子供のころに基礎学力を身に付けておかないと、後で大変な思いをするんだなと子供心に強く感じた記憶があります。
ひらがなも漢字も新聞で学習 教科書代わりに活用
--基礎学力を大切にするという佐藤さんの教育の原点かもしれませんね。お子さんの学習にどのように新聞を活用していたのでしょうか。
佐藤氏:子供たちがまだ文字を読めない時期から、新聞を身近な教材として使っていました。ひらがなを覚えさせたいときには、新聞を広げて「今日は“し”を探そう」「今日は“ふ”を探そう」と、子供たちと一緒に文字探しゲームをしていました。小さな子供にとって、新聞の紙は広くて扱いやすく、鉛筆を持って文字を探すこと自体が遊び感覚。気付かないうちにひらがなを覚えていましたね。新聞を広げて線路を書き、電車のおもちゃで遊んだりもしました。
当時は野球のイチロー選手が大活躍していた時期で、スポーツ欄をよく一緒に見ていました。そこには四字熟語や少し難しい言い回しがたくさん出てくるんです。学校や塾のテキストで出てくる漢字や言葉って、どうしても「覚えなきゃ」と義務的になりますよね。でも新聞の中で実際に使われていると、「あ、これ見たことある!」と自然に興味がわく。結果的に語彙や読解力の基礎づくりにもつながったと思います。

それから、新聞は“教科書代わり”としても本当に便利なんです。たとえば、子供が何度も間違える漢字や言葉があったら、新聞の中からその文字を探して大きく赤で囲んで冷蔵庫に貼っておくんです。紙に書いたりノートにまとめたりすると“やらされてる感”が出てしまいますが、新聞に直接書き込むとそれがなく、学びのハードルが下がるんですよね。
--生活の中に新聞を通じた学びを取り入れる。そんな感覚で活用されていたのですね。
親が声に出して言葉を伝える「おしゃべり学習」の極意
佐藤氏:親自身がまず新聞を広げてペラペラめくって見出しを眺め、「ここ面白いね」と子供に話すだけでも、家庭の中に新聞文化が少しずつ浸透していきます。私はこれを「おしゃべり学習」と呼んでいますが、親が声に出して言葉を伝えていくことが語彙を自然に増やすポイントです。1面や政治、経済面ではなく家庭欄でも良いので、親が自分の興味のある記事を読んで聞かせるだけ。時間にして15分程度で十分です。読み終わった新聞は、天ぷらの油を切ったりお魚を切るときのまな板代わりにしたり使い倒してください(笑)。
これから新聞を購読し始める人は、新聞をめくってみるのに1か月、どのページにどんな記事が載っているかわかるのに1か月、読んで子供に話せるようになるのに1か月…と時間はかかりますが、慣れますよ。
親子で一緒に、世界を広げて
--新聞を通して親子の会話が生まれるのは素敵ですね。では、子供の語彙を増やすために良い方法はありますか。
佐藤氏:子供にとって、親の声は「ママ・パパが何か言っている」と意識しながら耳に入ります。テレビやタブレットからの音声ではなく、お父さんやお母さんの声で日常的に言葉を耳に入れていくことをおすすめします。
そういった意味でも新聞は言葉や知識の宝庫です。英語・数学・国語・社会・家庭科など、あらゆる分野の情報がぎゅっと詰まっていますし、10代から90代まで幅広い世代の意見や考え方が紹介されています。だから、私は新聞を音読していたんです。
見出しの大きさや写真も工夫されていて、「これ何だろう?」と、つい目が留まることも多いですよね。私自身も、もともと興味のなかった分野の記事でも、見出しに引かれて読んでみたら「こんなことが起きているんだ」と驚くことがよくあります。

最近は、動画やSNSなどで自分の関心のある情報ばかりに触れることが多くなっていますが、それでは知らず知らずのうちに考え方が偏ってしまいがち。その点、新聞は自分の関心の外側にある世界を自然に見せてくれる存在です。幅広い記事に触れることで語彙が増えるだけでなく、子供の視野もぐんと広がります。
親子で新聞を読みながら、「これどう思う?」「こんなこともあるんだね」と会話を楽しむ。そんな時間こそが、新聞を最大限に生かすいちばんのコツだと思います。
--本日はありがとうございました。
3人の言葉に共通していたのは、「親子で語り合う時間の中にこそ、“読む力”と“考える力”を伸ばすヒントがある」ということ。新聞は知識を与えるだけでなく、親子で話し合い、考えを共有する“対話のきっかけ”をくれる存在だ。親子で新聞を囲み、紙面を通じて語り合う習慣が、子供の視野を広げ、考える力を育てる大きな一歩になるだろう。
新聞の試し読みはこちらセミナーを開いた情報・新聞の体験型ミュージアムニュースパーク(日本新聞博物館)のHPはこちら

