「ネットいじめ」高校生250人がネット議論…N高×Netflix特別授業

 Netflixで配信中のアメリカドラマ「13の理由」を題材に「ネットいじめ」について考える特別授業が2018年6月27日にN高等学校(N高)の代々木キャンパスで行われた。代々木キャンパスの生徒約80名とライブ中継で参加の生徒約170名、合計約250名が議論をした。

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N高 特別授業「Netflixオリジナルシリーズ『13の理由』で考えるSNS世代の高校生が抱える悩み ~その時あなたならどうする?~」のようす(2018年6月27日)
N高 特別授業「Netflixオリジナルシリーズ『13の理由』で考えるSNS世代の高校生が抱える悩み ~その時あなたならどうする?~」のようす(2018年6月27日) 全 9 枚 拡大写真
 アメリカのティーンに衝撃とともに共感を与えているドラマ「13の理由」をご存知だろうか。主人公の高校生を取り巻く、友達、親子、先生など、複雑な人間関係やそこに潜む闇を描き出している、「Netflix」で配信中のドラマだ。

 このドラマ「13の理由」を題材に「ネットいじめ」について考える特別授業が2018年6月27日、N高等学校(N高)の代々木キャンパスで行われた。

 通信制高校「N高」は、2016年4月に開校したネットの高校だ。現在の生徒数は6,512名(2018年4月時点)。「IT×グローバル社会を生き抜く“創造力”を身につけ、世界で活躍する人材を育成する」という理念のもと、現代のネット社会に対応した「新しい教育」を実践している。授業やレポート提出はネットで行い、時間を問わず自身のペースで授業を受けることができる。2017年からは、ネットコースだけでなく「通学コース」も設置し、同コースに対応したキャンパスが拡大している。

 今回の特別授業は、事前に参加を希望したN高通学コースの生徒を対象に行った。実施会場の代々木キャンパスの生徒約80名、ライブ中継参加の全国7キャンパスの生徒約170名、合計約250名のN高生が参加した。

 特別授業のパネリストとして、約20年にわたりネット上で「殺人事件に関与した」といういわれのない誹謗中傷を受けているお笑い芸人・タレントのスマイリーキクチ氏と、中学生時代にいじめを受けた経験があるという、教育YouTuberの葉一(はいち)氏が登壇。参加した生徒たちは、ノートPCから授業用のネットフォーラムを利用し、パネリストへのコメントや全体への質問を匿名で書き込みながら、活発なディスカッションを繰り広げた。

特別授業「Netflixオリジナルシリーズ『13の理由』で考えるSNS世代の高校生が抱える悩み ~その時あなたならどうする?~」のようす(2018年6月27日)

ネットはもはや「現実の場」



 当日の特別授業ではまず、「現在のいじめトレンド」という議題が示された。

 冒頭、「スマホを小学生から使っている人は?」との質問には10人程度の手があがり、生徒の間に驚きの声が漏れた場面があった。スマイリーキクチ氏は、「ブログでいじめの相談を受けているが、小学生から大人まで相談を受けている。加害者の自覚がないところに驚きがある」と現状を語った。「昔は“トイレの落書き”がたくさんあった。『右を見ろ』と書いてあって右を見ると『馬鹿』と書いてある。今はトイレはきれいになったけれど、ネットが落書きの場所になってしまった。」(スマイリーキクチ氏)

 葉一氏は「いじめを受けていた中学時代はSNSがなかったので、目の前で言われていた。(今は)YouTubeで授業動画を公開しているので、僕にもさまざまな世代から相談が来る。スクショ(スクリーンショット)を送ってくれた子がいて時代を感じた」と語り、現代社会において「ネット」はすでに中高校生だけでなく、小学生から大人までが日々使用する、現実の場であることを説明した。

写真拡散の「怖さ」



 特別授業では、ドラマ「13の理由」を放映。ドラマの中では、主人公の意図しない形で写真が拡散されていくシーンが映し出された。

N高 特別授業「Netflixオリジナルシリーズ『13の理由』で考えるSNS世代の高校生が抱える悩み ~その時あなたならどうする?~」のようす(2018年6月27日)
 スマイリーキクチ氏は、ネットでやり取りをしている相手に「送ってくれたら自分も送る」と言われ、裸の画像を送信したところ、拡散されたうえに結局相手は何も送ってこなかった…という相談を例にあげ、「ポルノ画像を所持しただけで加害者になることを知らないから拡散してしまう」とコメント。加えて、同氏はネット上に画像を公開する時など、写真の取扱いは慎重にならないと大変危険だと語った。「いろいろなサイトに画像を公開する時も、利用規約を読まないと“出会い系アプリ”の画像に使う(という規約)のに同意してしまっているかもしれない。」(スマイリーキクチ氏)

 葉一氏は、「YouTuberはすぐに謝罪するけど、一度アップしたものは取り消すのが難しい。自分に写真が回ってきた時にどうするか悩むと思う。そこは、まずいんじゃないか…と、自分がそこで止める勇気を持ってほしい」と、生徒たちに熱を込めて伝えた。

 ここで、授業に参加している生徒から「送られてきたらどうすればいい?」という質問が投稿された。「そのグループから抜ける、出回ってきたところから抜けること」とスマイリーキクチ氏は言う。続いて、「自分の写真が拡散されたらどうすればいい?」という生徒の質問があった。「拡散もとを突き止めて話をつける」という生徒のコメントが書き込まれたが、スマイリーキクチ氏は話がつくような人なら拡散しないと語り、警察に行って相談したり、裁判にするしかないのでは、と写真の拡散の怖さを訴えた。

軽い気持ちから広がる“同調と圧力”



 続いて「集団における同調・圧力」と題した議題があげられ、ドラマのワンシーンが映し出された。授業中に、主人公について書かれたメモが回されていくようすだ。生徒らはニヤニヤと回覧し続け、まったく悪びれていないようすが見られた。

N高 特別授業「Netflixオリジナルシリーズ『13の理由』で考えるSNS世代の高校生が抱える悩み ~その時あなたならどうする?~」のようす(2018年6月27日)
 「その場の空気でいじめが起こる。人の人生を潰そうとしたら自分の人生も潰れることをわかっていないと思う。事件化するとだいたい、加害者は『軽い気持ちでやった』と言う。」(スマイリーキクチ氏)

 「『ウザイ』と言われている人がいて、『ウザイ』という言葉を毎日聞いている周りの人にも(その思いが)次第に伝染していく。そしてその『ウザイ』は、昔は学校だけですんでいたのに、今ではネットでどんどん広がっていく。」(葉一氏)

 誹謗中傷をネットで拡散されたスマイリーキクチ氏と、中学時代にいじめを受けた経験のある葉一氏。それぞれの経験から語られる「いじめ」の本質に、生徒たちは静かに耳を傾けていた。

リツイート=借金の連帯保証人



 特別授業中、「友達AがTwitterで自分のことをいじっていた/煽ってきた。周りもそれに対して何人か反応している。もし自分だったらどうする?」という質問が投げかけられた。

 結果は、見なかったことにしてそのままにする79%、友達Aに対してTwitter上でやり返す21%となった。

特別授業「Netflixオリジナルシリーズ『13の理由』で考えるSNS世代の高校生が抱える悩み ~その時あなたならどうする?~」のようす(2018年6月27日)
 スマイリーキクチ氏は、「リツイ―トは借金みたいなもので、『このツイートの連帯保証人になる』ということだと思ったほうがよい。やり返すのは危険で、スルーが一番。論破してやろうというのは危険。逆恨みで身元や所在が判明して、本当に危険な目にあうかもしれない」と語った。問いかけに対し、生徒からは「スルーしてスクショする」という回答もあがった。会場の生徒たちは、静かにうなずいていた。

 「SNSでは、ノリでグループに入らないと、ハブにされる(省かれる)ことが怖いということがある。グループに入ってもコメントを書かないこともできるが、強い子にコメントを書けと強要されて、無理矢理書かされた一言をスクショされ、自分も仲間にさせられる…という例があった」という葉一氏は、スクショを使い、自分の意図しない形で拡散される危険があることも生徒に伝えた。

相談相手と、相談「されたら」



 さらに、生徒から「もし、親しい友達から『孤独を感じる』といったネガティブな感情を打ち明けられたら、どのように対処するか」という質問が投げかけられた。

 結果は、自分にとって相手が重要な存在だということを伝える68%、具体的な解決策を提案する32%となった。

特別授業「Netflixオリジナルシリーズ『13の理由』で考えるSNS世代の高校生が抱える悩み ~その時あなたならどうする?~」のようす(2018年6月27日)
 葉一氏は、「自分も誰にも相談できず教師も嫌いだった。僕の親は、僕が中学生時代いじめにあっていたことを知らなかった。親に相談できなかった。YouTubeで僕が語っているのを知ってショックを受けていた。それくらい、いじめにあっている子どもたちも、親には言えないのではと思う。僕も顔も知らない子から相談を受けるが『誰かが悲しむ』という言葉を言うと『誰だよ!』となる。『私が思っている』と伝えることが大切なんだと思う。言わなかったら後悔する。できれば顔を見て、会って伝えてほしい」と力を込めた。

 スマイリーキクチ氏は「相談相手って山ほどいる。僕はネットで情報を探して、相談する先をたくさん知って救われた」と語り、情報を集めて活用することを勧めた。

 葉一氏が続ける。「友達の定義を考えてみると、僕は33歳にして何でも話せる友達が2人しか思い浮かばない。ネットの趣味アカ(趣味アカウント)のほうが話せる人もいると思う。親には理解してもらえないかもしれないけれど、複数の相談相手があることは大事だと思う。ネットは使い方次第。グループから友達を外して喜んでいる人は仲間じゃない。そんな人から離れられたことを喜んだほうがよいと思う。」

 また、葉一氏は「学校へ行かないという選択もある」とアドバイス。その選択は「逃げ」でも「負け」でもない。「僕は鏡を見て1年間『お前は運がいいから大丈夫』と言い続けた。好きなことができると、自己否定をしなくなってくる」とし、自分の仲間を見極めることと自己肯定感の大切さを説いた。

特別授業「Netflixオリジナルシリーズ『13の理由』で考えるSNS世代の高校生が抱える悩み ~その時あなたならどうする?~」のようす・スマイリーキクチ氏は(2018年6月27日)
 スマイリーキクチ氏は、生徒らの若者を「きっとわれわれの世代よりネットでの嫌な思いを知っている」と表す。「講演で回っていると、読んでつらいアンケートもある。命の話はとてもつらい。私は『生きたい』と思ってきた。『生きて身の潔白を証明したい』と思っていた。自分が幸せになることが最大の仕返しだと思います。プラスになる趣味をたくさん持って、悪口がたくさん書いてあるところは見ないこと。人に傷つけられても、助けてくれるのは人しかいないんです。人を好きでいてほしい。言葉を大切に使ってほしい。自分にも人にも励みになるような言葉を世界に向けて発信してほしい。」(スマイリーキクチ氏)

N高生ならではのリアルな声



 授業終了後に、参加した生徒2人から話を聞くことができた。

 「今日の授業では期待していた以上にネットの怖さを教えてもらいました。N高ではネットリテラシーの授業があるんですが、授業よりも心の底から怖いと感じました。親も心配はすることはあるけど、父がIT関係の企業に勤めているのでアドバイスをもらっています。」(通学・週5コース2年生・Oさん)

 「自分がいじめを受けたからこそ、いじめをなくしたい、増やしたくない、と思って今日の授業に参加しました。より良くするためには人の意見が必要だと思うので、参加できてとても良かったです。いじめに加担したらダメだと言え、いじめを受けたら支えてあげられるようになることが、いじめを受けた経験のある自分の役目だと思います。」(通学・週5コース1年生・ゆうやさん)

スマイリーキクチ氏と葉一氏から保護者へのアドバイス



 授業終了後、パネリストの2人に保護者は何ができるのか、心構えとアドバイスを聞いた。

 「たとえばクルマは教習所で勉強してから路上に出ますよね。スマホは何の教習もない。家で教習して、学校は試験場、という考え方でいてもらうとよいのかなと思います。児童買春が見つかるきっかけは、大抵が子どもの異変に親が気付いてのことです。ここはやはりアナログです。何かを隠そうとしている子どもに気付く見守り方…上から目線ではなく、“横から目線”というか、子どもの表情や持ち物など変化に対して気配りをする必要があるのかなと思います。トラブルが起きるとスマホを取り上げる、というルールを多く聞きますが、取り上げるより『トラブルがあったら必ず言う』というルールのほうがよいのではと思います。今の子どもたちにとってスマホはとても大切なものです。」(スマイリーキクチ氏)

特別授業「Netflixオリジナルシリーズ『13の理由』で考えるSNS世代の高校生が抱える悩み ~その時あなたならどうする?~」のようす・葉一氏(2018年6月27日)
 「何かあった時に、親は気持ちを伝えるか、アドバイスをするか…というところですが、親はいろいろと解決策を言いたくなると思うんです。けれど、子どもは『それはわかっている』と反発してしまうと思います。塾講師をしていたので、保護者から相談も受けたこともあるのですが、助けを求められたらいつでも助ける、とても大事だよ、ということを声に出して伝えてほしいと思います。リアクションが薄くても、本当は嬉しいはずです。素直に気持ちが伝えられなくても、子どもたちは安心するはずです。」(葉一氏)

 特別授業を受けた生徒からの投稿に「加害者が被害者に謝ったら終わり、と思っている教員がまだいる」というコメントがあった。心の傷やいじめを見過ごさず、見て見ぬふりをしない社会をつくっていくために、親や教員は何ができるのだろうか。子どもより親世代のほうが「ネットいじめ」の経験や情報が足りないのは明らかだ。

 子どもの気持ちに寄り添い、耳を傾け、お互いの理解を深めながら、何かあったら言いやすい環境・関係をつくっていく。そういった取組みは、子どもの社会だけでなく、大人の社会の課題でもあるのだろう。

《田口さとみ》

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