持続可能な食事の実現に必要な摂取パターンは…東京大学

 東京大学大学院の佐々木教授と杉本南大学院生(研究当時)は2022年3月23日、オランダWageningen大学のvan’t Veer教授、オランダ国立公衆衛生環境研究所のTemme博士らとともに、日本人の、現在の食事よりも持続可能性が高い食事のあり方についての研究結果を発表した。

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最適化された食品の摂取パターンにおける食品の摂取量と現在の食品の摂取量の比較(女性)
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 東京大学大学院医学系研究科の佐々木教授と杉本南大学院生(研究当時)は2022年3月23日、オランダWageningen大学のvan’t Veer教授、オランダ国立公衆衛生環境研究所のTemme博士らとともに、日本人における持続可能な食事の実現には、全粒穀類の摂取量の増加と清涼・アルコール飲料、牛肉・豚肉・加工肉の摂取量の削減が必要という、温室効果ガス排出、栄養素、食費、文化的受容性を考慮したモデル分析の研究結果を発表した。

 食品の生産によって生じる温室効果ガスの排出量は、世界全体の温室効果ガス排出量の3分の1を占めると言われている。温室効果ガスの排出量が最小になり、かつ、人々の健康を両立する食事および食システムへの変換は、重要な課題となっている。欧米では、すでに数理最適化法を用いた複数の研究が行われている。しかし、数理最適化法では、非現実的な食品の組み合わせが生じてしまうという限界がある。そこで同研究では、Wageningen大学の研究チームによって提案された包絡分析食事モデルを用いて、現在日本人が摂取している食品の組み合わせに基づいた代替的な食品の摂取パターンを求めた。

 調査では、20~69歳の日本人の男女396人に、4日間の食事の献立と材料、材料の重量を記録してもらい、1日の平均を算出した。摂取量データの信頼度が極端に低いと判定された23人を除外し、369人のデータを用いた。

 まず、包絡分析食事モデルを用いて、対象者の摂取パターンを多次元的に比較。摂取量の多いことが好ましいとされている食品(野菜、果物、全粒穀類、豆類、種実類、魚介類、乳製 品)の摂取量に対して、摂取量の少ないことが好ましい食品(牛肉、豚肉、加工肉類、精製された穀類、清涼飲料類、アルコール飲料類)の摂取量が少なく、好ましい摂取パターンの男性74人、女性71人を抽出した。次に、それ以外の男性・女性の摂取パターンが、好ましい食品の摂取量に改善されるよう、好ましい摂取パターンとされる前述の男性74人、女性71人の摂取パターンを組み合わせて、代替の摂取パターンを算出した。組み合わせの算出に際しては、「文化的受容可能性が最大(現在の食事と、算出された食事の摂取量の変化の差が最小)」「食事の栄養学的な適切さ(18種類の栄養素を用いて判定)が最大」「食事の金銭的コスト(各種食品の小売価格データベースと食品摂取量をもとに算出)が最小」「食事由来の温室効果ガス排出量が最小」との4要素すべてが達成されるモデルを設定した。

 調査の結果、見いだされた食事の摂取パターンは、現在の食事と比べて、清涼・アルコール飲料、牛肉・豚肉・加工肉、調味料類、砂糖・菓子類の摂取量が少なく、全粒穀類、乳製品、豆・種実類、果物類、鶏肉の摂取量が多いものとなっていた。また、モデルに倣って計算した摂取パターンでは、現在の食事と比べて食事の栄養学的な適切さが高い(男性で8%、女性で10%)一方、金銭的コスト(男性で6%、女性で2%)と食事由来の温室効果ガス排出量(男性13%、女性10%)は低くなった。これらのことから、食事の摂取パターンを変えることで、複数の条件と両立して、食事由来の温室効果ガス排出量を10%程度削減することが可能ということがわかった。

 今回の研究で示された食事のあり方は、地球の生態学的環境と人々の健康を両立する食システムの実現に向けた、最初のステップになると期待される。今回の研究の対象者は、日本人の代表的な集団ではないうえ、食事調査も一季節(冬)のみであるため、今後は複数の季節の食事データを含んだ、より代表性が高いデータを用いた研究が必要となる。また、示された食品の摂取パターンを実現するための、具体的な方策を探る研究も必要だとしている。

《木村 薫》

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