過去最高の受験率となった2024年度の中学入試。都内に11校ある公立中高一貫校においては2.5~5倍近い受検倍率を維持するといった人気が続いている。
近年、より深い思考力や記述力が求められる公立中高一貫校の適性検査入試に立ち向かうためには、どのような学習が必要とされるのか。栄光ゼミナールの指導ノウハウに基づき、都立中高一貫校対策に特化した専門塾E-style受検指導統括責任者の石原裕一郎氏に、低学年のうちから身に付けたい「力」について聞いた。
2025年度入試より男女別定員が撤廃に
--公立(都立)の中高一貫校の入試の変遷や概況についてお聞かせください。
まず都立中高一貫校の変遷についてお話しすると、2005年に台東区にある白鷗という学校が都立校初の中高一貫校としてスタートしました。当初、都立の入試問題というのは学校ごとに作成されたオリジナル問題が主流で、適性検査と報告書の配点比率も学校によってバラバラ。ですが、2015年より出題傾向や選考基準をある程度統一させようという方針に変わり、各校で共通の共同作成問題が採用されるようになりました。それがちょうど今から10年前です。

また、これまでは男女の生徒数が同数となるように性別による定員を設けてきましたが、2025年からは男女別定員が撤廃となり、今後は性別にかかわらず成績順に合格者が決まります。現在も補欠合格については男女別基準ではないため、繰り上がり合格は女子が多くなる傾向がありましたが、特に都立の中でも桜修館のように女子の人気が高い学校については、正規合格者における女子の割合が増えることが予想されています。逆に男子比率が高い小石川のような学校もあり、今後の男女比率がどう変化していくか注目が高まっています。

--コロナ禍前後ではどのような変化があったのでしょうか。
以前は試験日にインフルエンザ等に罹患してしまった場合、救済措置は一切ありませんでした。しかし、コロナ禍を機に「追検査」という形で、別日に試験を受けられる特例措置が始まりました。当初は報告書と面接のみの選考でしたが、2024年度入試からは追検査においても適性検査が実施されるように。今後はこの形式で落ち着いていくのではないかと思われます。
--本検査と追検査では、適性検査の内容に違いはあるのでしょうか。
追検査における適性検査は、言うなれば都立高校の推薦入試に近いタイプの問題です。通常の適性検査は、算数分野、社会分野といった科目ごとの出題が多いのに対し、追検査は1つの題材をテーマにした文章を読んで、それについて考える・記述させるというもの。複数教科の知識を活用して論理的に考える力や表現する力が求められるという、教科横断型の特色がより色濃く表れているのが追検査です。
大学入試やその先を見据えて都立中高一貫校を選ぶ
--10年前と比較し、倍率自体は徐々に下がってきてはいるものの、それでも2024年度は、学校や男女別によっては2.5倍から5倍近い倍率になっている学校もあります。この人気を維持している背景には何があるとお考えでしょうか。
都立の人気が高い地域もあり、祖父母や両親が都立出身で子供にも同じ教育を受けさせたいと都立を志望するご家庭は多くいらっしゃいました。ですがここ近年は、大学入試やその先の将来にも有用になるような力を付けてあげたいと都立受検を考えるご家庭が増えてきたように思います。大学入試で求められる思考力、判断力、表現力は、都立中高一貫校の適性検査の内容に近く、適性検査への対策はその先の大学入試にも繋がります。こうした都立中高一貫校の教育方針に共感される方が増えてきたことにより、今の人気が維持されているのでしょう。

--入試の問題について。10年程のスパンで見たとき、出題傾向や内容に変化はあるのでしょうか。
10年前というとちょうど2015年。先にお伝えした共同作成問題が導入されたばかりの頃ですが、その当時と比べると近年の入試問題のほうが問題文の説明がていねいになり、問われている内容がわかりやすくなってきています。誘導がしっかりされているというのもそうですし、解答にこの要素とこの要素を入れないと正解にならないということが明示され、採点の基準もはっきりしています。
「幅広いテーマで自由に書くよりも、ある程度条件がある方が書きやすいのでは」と思うのは大人側の考えで、子供たちにとっては、与えられた条件に沿って自分の意見をまとめていくのはかなり難しいと感じるようです。子供たちは、何の制約もなければ何かしら書ける子が多いのですが、字数制限を守り、要点を抑えたうえで、論理的に一貫した文章を完成させようとするには、やはりそれなりにトレーニングを積むことが不可欠になります。
--ボリュームや難易度についてはいかがでしょうか。
コロナ禍前は算数と理科、社会分野の大問でそれぞれ3問ずつの小問が設けられていたのですが、2021年より1分野につき小問が2問に減り計6問に。ここ数年間はそれが踏襲されています。問題文が長くなり、2つの文章を関連付けて考える問題や、1つの図表のなかにたくさんの要素が入り込んでくる資料など、すべての教科においてじっくり読み込まないと解けないような問題が多くなっています。
低学年のうちから身に付けたい3つの力
--大人が考える難しさと子供の考える難しさが違うということですね。通塾するお子さんの低年齢化が進んでいると耳にしました。小学生、特に低学年のうちから培っておきたい「力」とはどのようなものでしょうか。
私どもは都立中高一貫校対策に特化した専門家として、都立の適性検査に挑むためには3つの力が必要と考えています。
1つ目は「想像する力」です。国語分野にあたる適性検査Ⅰでは400~440文字の作文が出題されますが、作文や記述が苦手なお子様に多いのが「自分の中での体験を引っ張り出せない」というもの。一例をあげると「日本の文化について、本文の内容に即してあなたの経験を交えて書きなさい」という問題。大人は、地域のお祭りであったり、お正月やお盆といった年中行事であったり、小学生なら誰もが経験していることをふまえて書けば良いのではないかと「文化」の言葉からくみ取ることができるでしょう。しかし、それがお子様にとっては「こんなの知らない」「思い出せない」となってしまい、何も書けないことがよくあるのです。
また、問われている内容に対して、最終的にきちんとした結論を述べてほしいのに、書き進めていくうちに答えがずれてしまうということは、ほとんどすべてのお子さんが経験しているのではないでしょうか。問題が何を聞いているかをくみ取り、最終的にどのように着地しなければならないのかをイメージする、「想像する力」を鍛えていくことが必要です。きちんとトレーニングをすれば、「この体験について書ける」とか「こういう意見を書けば良い」というのがわかり、大半の子が書けるようになります。できるだけ低学年のタイミングで「これでもOKなんだ、褒めてもらえるんだ」という経験をすることで、その後の記述問題への取り組みやすさが格段に違ってくると思います。

2つ目は「傾聴する力」です。たとえば、「挨拶」を取りあげた出題を想定すると、かつてはシンプルに「挨拶はあなたにとってどう大切か」というテーマについて書けば良かったものが、近年は、まず文章を読んで、書かれている内容から筆者が挨拶についてどう思っているかをきちんと理解したうえで、そこに自分の考えをプラスして書かなければなりません。文章の中で筆者が定義付けたことに対して、「筆者はこう言っているけれど、私はそれに対して全面的に賛成で、さらにこんなことをしていきたい」「筆者の述べた定義はこんなふうに変更しても十分機能するのではないか」といったように、主張を読み込んだうえで、関連付けた自分の考えを書くことが求められるのです。
与えられたテーマに対して、筆者の言葉や主張の中でこうだと言っている部分をいかに見つけるか。これが「傾聴する力」です。
--他者や筆者の主張をふまえたうえで、さらに自分の意見をのせていくということですね。大人でも難しいと思いますが「傾聴する力」はどのように伸ばしていくのでしょうか。
長年の指導経験から私が感じたことですが、「こんなテーマならこんな作文が書けるよ」と大人側が解答例をたくさん出しても、子供はそれを自分のものとして書けるようにはなりにくいんです。それよりも、他の子が書いた上手な作文を見せたり、周りの子がどう意見をまとめたのかを発表し合ったりしたほうが、格段に書けるようになります。自分と同じ年齢の子がこれだけ書けるんだという驚きを得、小学生同士で共感できる部分を見出していく中で、自分の記述の仕方、書き方というものを身に付けるのが一番の最短ルートだと思っています。それを実現するには、他の子が言っていることをちゃんと聞いて、使えるようにしていかないといけません。その意味でも「傾聴する力」はとても大事だと感じています。
--周りの意見を参考にしたり、自分とは異なる見方や共感できる意見に触れる経験を積み重ねることで、いずれ自分の書き方や表現が身に付いていくのですね。
はい。友達の発表を聞いて意見を交わし合えるのは、集団塾の大きなメリットとも言えるでしょう。
そして、3つ目の力というのは「発信する力」です。適性検査の問題は、国語分野だけではなく、理科や社会であっても自分の考えを記述する必要がありますし、算数も途中の考え方を書かせる問題が多いです。

大切なのは、たとえ途中まででも考えた過程を必ず書くこと。「ここまではわかりました」「問題文にあるこの部分に注目して、それについての解答は作れました」とアピールする力がついている子は、記述が0点になることはありません。いわゆる塵も積もれば作戦ですが、1つの問題につき数点でも良いから部分点を積み重ねていくことは合格ライン上に乗るためには欠かせません。
長年、適性検査の指導をしてきてこれだけは断言できるのですが、〇×がはっきりしている答案よりも、ほぼすべての問題で△が取れる子の方が実は合格率としてはずっと高いのです。解ける問題だけに全力集中してしまうよりは、いろいろな問題である程度の最低ラインは取る。完全解答でなくても、5~8割ラインの記述ができるというのはとても有利です。
E-styleの対話授業で得られる成功体験
--「想像する力」「傾聴する力」「発信する力」これら3つの力を伸ばしていくE-styleの学びの特徴についてお聞かせください。
適性検査に合格するための力を身に付けるために、E-styleでは発表する機会を多く設けています。一般的な塾の授業は、先生が解説をしたら類題を解くといったような、一方通行型が大半だと思いますが、私どもは子供に問題の解説をしてもらったり、先生と生徒が活発に意見を交わし合ったりと、双方向対話型の授業を展開しています。少人数制だからこそ実現できるこうした授業スタイルが、E-styleの大きな特徴です。
すべての学年で対話を重視していますが、5年生6年生になるとどうしても講義や演習型の授業も増えるため、低学年に比べると時間をとりにくいのが現状です。特に今までにあげた3つの力は、やはり低学年の方が身に付きやすいと感じています。たとえば、3年生では、授業で扱った題材にまつわるポスターを宿題で描いてきてもらい、それについて発表したり、感想文を書いてきてもらうこともあります。書けるようになるための練習はもちろんですが、他の子に聞いてもらうことで自分の書いた答えがより良くなっていくという成功体験を、低学年のうちにできるだけ積ませたいと考えています。
--そのような低学年の経験が、高学年、特に受検期の学びにどのように繋がっていくのでしょうか。
低学年のうちにこの成功体験を積んだ子は、過去問にあるような難しい問題を解く段階になっても、書くことへの恐怖心が少ないため、合格に繋がりやすいのです。都立の適性検査の最大のメリットは、部分点がもらえるというところ。先ほどもお伝えしましたが、一問一問の得点を積み重ねていき、合格点にもっていく粘り強さ、問題への向き合い方というのが低学年の方が育ちやすいのです。
同時に、低学年の頃は学校でもよく発言していたのに、5年生ぐらいからだんだん発言しなくなってくる子もいます。高学年になると、間違いや見当違いなことを言ったら恥ずかしいと気後れしたり、自分の発表を否定されたことがきっかけで発言しなくなったりするケースもあります。一度このような「しゃべりませんモード」になった子を再びしゃべらせるのは、とても大変です。
その点、何をしゃべっても許してもらえる、気にせず発言できるE-styleの教室という環境に低学年から身を置いている子は、高学年になっても自分の意見をしっかり言えますし、自分の考えを他者に対してわかりやすく説明できる子が多い印象です。

--最後に、小学生の親御さんにメッセージをお願いします。
低学年になればなるほど、私立を受けるのか都立を目指すのか、そもそも中学受験するかどうか迷っていらっしゃる親御さんも多いと思います。私たちがE-styleの指導を通じて身に付けてほしいと目指している「想像する力」「傾聴する力」「発信する力」というのは、受検を突破するだけのものではなく、これからの将来にもつながるお子さんの学びを支え続ける土台の部分だと考えています。先生や生徒同士で活発に意見を交わしながら、お子さんのもっている力を存分に伸ばしていけたらと思います。
--ありがとうございました。
「多くのご家庭と面談させていただくなかで、作文や記述を通して自分の考えを正しく伝える力を身に付けさせたいからと、都立中高一貫の専門塾を選ばれるご家庭が多いと感じています」と石原先生。E-styleの対話型授業を受けることで、論理的に考える方や、表現する力を低学年のうちから自分自身の強みにできるメリットは大きいだろう。公立中高一貫校受検を通して育まれる力は子供たちの“一生の財産”になるに違いない。
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