医学部入試で高い合格実績を誇る駿台予備学校(以下、駿台)は、2024年11月から2025年1月にかけて、全国の駿台グループ28会場において医学部入試情報講演会を実施した。
同講演会では、医学部受験に関する最新情報をはじめ、駿台ならではの受験戦略などが披露され、どの会場でも多くの参加者が熱心に聴講した。本記事では2024年12月21日に医学部受験専門校舎・市谷校舎で開催された同講演会の概要をレポートする。
基本の英語・数学・理科2科目をきっちり仕上げるのが前提
講演者は医学部受験専門の市谷校舎で高卒生クラスの国公立大医系コースを担当する秋庭孝一郎氏。冒頭では医学部医学科の入学定員が2016年に9,420名でピークに達して以降、9,400名前後という高い水準で推移していることに言及。とりわけ2025年度は新課程入試の初年度にあたるため、昨年度は浪人を避けたいと考え、安全志向の出願校決定をした受験生が増えたことから、「ライバルが少ない年」だと指摘した。
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大学数を見ると、2025年度は国公立大の2次試験で前期日程が49大学、後期日程が16大学と前期日程に偏り、後期日程は各大学の募集人員を鑑みても狭き門となっている。一方で私立大は31大学+防衛医科大となっており、国公立大に比べると都市部に集中している。
秋庭氏は、現在後期日程を実施している旭川医大・山形大・佐賀大が2026年度入試より廃止を予定していることもあり、「国公立大志望者はまず前期で合格を目指すことが大前提。そのためには早い段階から計画的に準備を進めていくことが大事」と語った。
入試科目は、国公立大が大学入学共通テスト(以下、共通テスト)で6教科8科目、2次試験で英語・数学・理科2科目および面接、私立大は英語・数学・理科2科目および面接・小論文というのが一般的だが、私立大の中には共通テスト利用を実施する大学もあり、国公立大と私立大の併願にも多様な選択肢が生まれているという。
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また、大学によってはこの入試科目が特殊なケースもあるので注意が必要だ。
たとえば国公立大では、北海道大・群馬大・金沢大・愛媛大・九州大・佐賀大・名古屋市立大の7校は理科2科目のうち物理が必須となっている。よってこれらの大学を志望する場合は、必然的に選択科目を決定するタイミングで物理を選択する必要が出てくる。ただし、こうした事情から、物理選択のほうが得だと捉えてしまうのは短絡的だと秋庭氏は指摘。「『好きこそ物の上手なれ』で、受験勉強でも主体的に取り組める科目は伸びる。選択肢が狭まることにとらわれずに好きな科目、得意な科目を選んでほしい」と強調した。
また秋庭氏は、旭川医科大・弘前大・秋田大・島根大・徳島大・奈良県立医科大では、個別試験に理科がないものの、「理科が苦手でも合格しやすいというわけではない」と釘を刺す。「こうした大学では共通テストの理科の配点が大きいケースが多く、理科が苦手でも共通テストではしっかり得点できることが大前提」だという。
さらに、私立大では数Ⅲが不要といったケースや、東海大や兵庫医科大のように理科が1科目で受験できるほか、帝京大では数学・国語・理科から2科目選べたり、昭和医科大では数学の代わりに国語で受験できたりと、「英語・数学・理科2科目」のすべてがそろわなくても医学部に合格できるルートがないわけではない。
しかしこの点で秋庭氏は、「英語・数学・理科2科目をきっちり仕上げるのが医学部受験の王道。ここを最初から避けて通るべきではない」と言い、「高1・高2ではまずしっかりと英語・数学を仕上げ、高3から英数の実戦的な問題演習と理科の強化に努められるよう、準備しておくべき」だと述べた。
特に医学部は出題傾向が特殊な大学もあり、過去問を使った入念な個別対策が求められる。そのため、「高3の夏あたりまでにどこまで準備を進めておく必要があるか、高1・高2から具体的なイメージをもって学習計画を立てておくと良い」とも指南した。
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私立大出願の重要ポイントは受験日程と学費
次に紹介されたのは2025年度の医学部入試スケジュールだ。ひと言でいうと、医学部入試はハードかつ長丁場であり、メンタルでもフィジカルでもタフでなければ乗り切れない。
まず7月末までに各校の入学者選抜要項が公表され、9月頭から総合型選抜がスタート。そのあと、共通テスト出願を経て、11月より学校推薦型選抜が始まり、12月中旬あたりから私立大の一般選抜の出願が始まる。そして、年が明けて1月に共通テスト、その直後から私立大の一般選抜、2月に国公立大の前期日程、3月には後期を実施する一部の私立大、さらに国公立大後期日程と、約半年にもわたる怒涛のようなスケジュールだ。
2024年8月に実施した「医学部推薦・総合型選抜対策講演会」で触れられたように、推薦・総合型選抜は今や多くの大学が実施している。医学部でも推薦入試が全定員の2割強を占めるが、医学部の場合は高い評定平均値が求められることに加えて、学科試験や共通テストで一定の得点を必要とするケースがほとんどだ。
秋庭氏は「だからこそ、高校入学後からコツコツと学校の勉強を頑張っておくと、医学部の受験機会を増やすことができ、合格のチャンスは広がる。とはいえ、あくまでも本命には全定員の8割を占める1月以降の私立大や国公立大前期日程という大きな枠を見据えるのが正攻法」だとし、出願校を選定する際の具体的な戦略や着眼点を続けて解説した。
まず、私立大の出願では、すべての受験生にとって不可抗力の領域となる受験日程と学費の2点が重要な着眼点だ。
秋庭氏によると、1点目の受験日程については、「1次試験日が重複している大学はどちらか1校に絞る」、「A大学の1次試験と、B大学の2次試験が重複しているようなケースは両校とも出願する」のがセオリー。そして、「1次と2次がダブルブッキングになった場合には、共通テストの得点率や、他の大学の合格状況をはじめとした、その時点での入試の状況により、どちらの入試を優先するか柔軟に対応していけば良い」。
「逆にA大学の1次試験とB大学の2次試験が重複するだろうからと、どちらか一方の出願を控えると、結果的にB大学の1次試験が通らなかった際に手持ちのカードがない状態につながってしまうケースがままあり、これは受験戦略においてリスキーでお勧めしない。大学の難易度にもよるが、基本的には2次試験に進めている大学の面接を受けきった方が医学部合格率は高まるので、こうした選択の余地を残した出願戦略を年内にしっかり立てることが肝要」と言う。
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また、2点目の学費について秋庭氏は、「入試が始まる前の11~12月あたりまでに、どこまでなら家庭として支払い可能なのか、受験生と保護者が目線をあわせて合意をしておくことが重要」と訴える。というのも、この部分のすり合わせが甘かったせいで、せっかく合格し、本人は進学する気でいたのに、経済的理由で医師になるスタートラインに立てなかった悲劇を度々目にしてきているからだ。
「こうした意識のズレが受験の本番期に浮き彫りになると、受験生のメンタルにも当然影響を及ぼす。保護者は学費の限界に引け目を感じることはないが、限界ラインの情報共有は事前にしておくべき」と語りつつ、「まだ高1・高2であれば『家計が楽ではないので国公立大に行ってほしい』などと発破をかけ、目線の高いところでモチベーションを維持させるのも一手」だとした。
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一方、国公立大の出願で重要な着眼点となるのは、共通テストの得点率だ。
国公立大医学部合格者の平均3か年対比データをみると、医学部志望なら9割以上の得点を目指すことがまず前提とされていた旧センター試験に比べ、共通テストでは入試年度によって難易度が異なり、差が付く科目も毎年のように入れ替わっていることがわかる。
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たとえば2022年度は数学が難しく、数学を稼ぎどころにしている多くの医学部受験生は苦戦を強いられた年だった。秋庭氏は、「共通テストは特定の得意科目に頼ろうとしても目論見どおりいかない」とし、「むしろ医学部受験生が後回しにしがちな国語や地歴・公民をコツコツと頑張って貯金ができていると、英数理で得点が伸び悩んでも必要点に届く可能性が高まる」と指摘。
「共通テストは限られた短い時間で大量の問題を正確に処理する能力が問われ、基礎力・計画性(時間配分)・速さ(速読・速解力)・正確さ・慎重さのすべてが必要で、やはりセンター試験より難易度はやや上がっている。英数理は『医学部の対策をしておけば大丈夫』と軽んじるのではなく、12月からは共通テスト対策にも十分に時間をあて、模擬試験や問題集・過去問などで速さを意識した訓練を重ね、実戦力を高めることが重要になる」と語った。
では、具体的に国公立大医学部の合格者は共通テストでどの程度の得点率なのか。たとえば千葉大の2023年度と2024年度の合否分布をみてみると、合否の分かれ目になっている得点帯が390点(86.7%)から400点(88.9%)に推移していることがわかる。これは900点満点に換算すると、年度によって目安になる得点が約20点異なっているということだ。言うまでもなく大きい差である。
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これについて秋庭氏は、「2024年度の千葉大志望者の学力が急に上がったわけではなく、こうした推移はその年の共通テストの難易度による部分が大きい。同じ得点でも年度によってその価値が変わってくることを忘れてはならない」としたうえで、「駿台では毎年共通テスト直後に自己採点と志望校を登録してもらい、その集計値をもとに受験生は各大学の志望者集団の中で自分はどの位置にいるかを把握して、最終的な出願校を決定する」と説明した。
ただし、ここで難しいのが、自己採点の集計値から算出された立ち位置を踏まえ、受験生がもう一度動くことだ。経済事情により私立大に行けない、あるいは昨年度のように浪人したら新課程入試に切り替わる状況を避けたいとなると、前期1校しか出願できない国公立大ではより確実に合格できるところを受験しようとする心理が働く。そうなると、難易度の高い上位校を避け、結果として上位校の倍率が下がるケースも珍しくない。実際に2024年度ではこの現象が千葉大・東京医科歯科大(現 東京科学大)で起きている。一方、その逆が愛媛大・高知大で、2024年度は倍率が跳ね上がっている。これは、自己採点集計段階では志望者が少なく、判定ラインが甘く引かれたために、共通テストでつまずいても「ここならねらい目だ」と見込んだ受験生が集まったからだ。
このようなデータや受験生の動向の見極めは個人では難しく、「予備校の専門領域になる」と秋庭氏は言う。もちろん、国公立大の出願校選定では、共通テストの結果に加えて個別試験の学力も踏まえて総合的に考える必要があり、「個別試験は大別すると問題が易しめで高得点勝負の傾向か、問題が難しめでそれほど高得点は必要とされない勝負のいずれかになる。出願校を最終決定するときには、過去問を解いたうえでの手応えだけではなく、合格に必要な点数を志望校ごとに調べ、共通テストの得点や立ち位置を踏まえたうえで最終的な合格点に届きそうかを精査していくことを勧める」と語った。
出願戦略の決め手となる受験生動向…今年度は新課程移行で強い浪人生が減少
秋庭氏はもうひとつ、国公立大・私立大ともに共通する出願戦略の決め手として、「受験者動向(模試動向)」を示した。これは圧倒的な受験者数を有する駿台・ベネッセ大学入学共通テスト模試のデータから、前年度の第1志望者を100とした場合に今年度はどの程度増減しているか、大学ごとの受験者動向を判断するものだ。
2024年9月に行われた第1回のデータをみると、医学部の国公立大の志望者指数は98、私立大は志望者指数が101となり、医学部全体としては微増だという。
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大学別に一例をみると、国公立大では千葉大の志望者指数は2024年度全体で102となり、前年度比2%増。ただし秋庭氏は、「これだけでは千葉大の難易度が上がっているとはいえない」と指摘する。確かに、志望者の偏差値分布をみると、C判定手前のD判定あたりの志望者が多い。
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また、私立大では、東京慈恵会医科大と日本大はともに志望者指数84と前年度より大きく減少しているが、C判定以上の上位層の志望者も昨年度を下回っている。
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これらの動向からは、先にも秋庭氏も述べているように、新課程に切り替わることで前年度は多くの受験生が浪人を避けて手堅く合格をつかもうとしたため、今年度は強い浪人生が減少していることが見て取れる。
加えて、受験者動向を見る際には、科目配点、募集人員、二段階選抜基準などの変更があるかどうかにも留意する必要がある。実はこれも受験生の動向に大きく影響を与えると秋庭氏は言う。2024年度入試では、第1次段階選抜の指定倍率を9倍とし、ほとんど第1段階選抜不合格がないとされてきた岐阜大学が募集人数の3倍以上に達した場合に実施すると変更したため、第1段階選抜不合格のリスクを避けたい受験生が近隣大学へ流れ、結果として三重大の倍率が前年の3倍台から8倍台へと大きく引き上がっている。また、私立大では学費増減の変更が出願者数、難易度に大きく影響を及ぼすと言及した。
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このように、入試の変更点は変更を行う大学だけでなく、近隣や同じ偏差地帯、同じ学費水準の大学などにも影響を及ぼすことから、秋庭氏は「いずれの大学も難関とされる医学部受験において、決定的な穴場やねらい目を見出すのは難しい。しかしながらこうした動向を知りえていれば、倍率が高まりやすい大学を回避することはできる。こうした推測をするのは高校や家庭では難しく、その点では情報面にアドバンテージがある予備校に頼るのも一案だ」と述べた。
他学部と比べハードな医学部受験 プロの力を借りて乗り切る
最後に秋庭氏は、今や全大学の医学部で実施される面接についても触れた。医学部入試の面接ではおもに、コミュニケーション力、医師としての倫理観、問題解決能力の3つが評価されるという。「鉄板といわれる『なぜ医師になりたいのか』『なぜその大学で学びたいのか』という志望動機、診療科や研究分野など将来のこと、地域に残る意志はあるかどうか、自分自身の長所・短所に加えて一般常識や医療に関する基礎知識は抜かりなく準備しておかなければいけない」とし、「駿台では模擬面接や面接に特化した短期講座、現役医学部生を交えたレクチャーイベントなども多数あるので活用してほしい」と語った。
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そして「医学部受験は受験準備もスケジュールも、他学部とは比べものにならないほど忙しいが、辛いときには将来医師として活躍する自分の姿をイメージし、『これを乗り切れないようでは将来、医学部の勉強はもとより、医師として厳しい医療の最前線には立てない』と自分を奮い立たせてほしい。どうか強い気持ちをもって受験に向かってほしい」とエールを送り、受験生と保護者が最後までメモを取る手が休まらない中、講演会は盛況のうちに終了した。
6教科8科目において正確さと処理速度が求められる共通テスト、高い学力水準が求められる2次試験、さらに面接に小論文など、膨大な準備が求められる医学部受験。忙しいからこそ、計画的な準備が重要になり、また、複雑な情報戦を制したうえでの出願戦略が求められる。受験生も保護者も相当な負担が求められる中、やはりプロによる支援は心強いものになるだろう。長年の知見とノウハウをもつ予備校の力も上手に活用して、難関の医学部受験を乗り越えていただきたい。
高校3年生に向けた集中対策演習講座自宅でも医学部対策
中学生も駿台で医学部入試の準備