駿台予備学校は、質の高い講師陣による集団授業を強みに、これまで数多くの国公立大学や難関私立大学への合格者を輩出してきた。しかし、生徒のニーズや学力層が多様化してきている近年、同校が注力しているのが、ICTを活用した学習状況の可視化と個別最適化だ。コロナ禍以前から高卒生への端末1人1台体制を見据え、ICTコンテンツや学習進捗管理を行うコーチングシステムを業界に先駆けて導入しており、2024年度には、学内資格制度「駿台ICTマイスター制度」を創設した。
「日本全体の教育水準の向上に貢献すること」という理念の下、「駿台ICTマイスター制度」はその一環と位置付けられている。この制度は、「ICTツールを与えるだけでは学力は伸びない。知識とスキルを備えた職員の支援があってこそ成果が出る」という信念に基づくもので、高校生・高卒生を担当する職員が、生徒の学力向上に貢献できるよう、体系的にICTスキルを習得することを支援・評価する仕組みだ。2025年1月には、全国の職員の中から認定試験を突破した23名が「駿台ICTマイスター」に認定され、すでに各校舎で生徒の支援にあたっている。
この資格をいち早く取得した3名の職員に、指導現場でのICT活用の実態や、駿台ICTマイスターとしての役割、そして今後の展望について話を聞いた。
【話を聞いた人】
駿台予備学校 町田校 教務課課長補佐・添田祐一朗氏
駿台予備学校 お茶の水校3号館(東大専門校舎)・岡本和音氏
駿台現役フロンティア 千葉校・居下雄大氏

「習熟度の可視化」と「効率化」で、戦略的な学びへ
--小中高で1人1台端末の環境整備が一気に進みました。駿台の各校舎で行われているICTを活用した学習について教えてください。
添田氏:町田校の高卒クラスは「プレミアムサポートコース」(*)として、授業とICT演習が連動するカリキュラムを提供しています。講師による集団授業でインプットした内容を、その場でICTツールを用いて復習・定着させるスタイルで、加えて学習コーチが生徒の全科目の学習状況・学習習慣をICTツールで確認しています。(*プレミアムサポートコース:基礎学力養成を重視し、ひとりひとりの学習状況に応じて、ICTコンテンツを活用し、手厚いコーチングを提供するコース)
生徒の学習習慣や学力の背景はさまざまであり、一律の指導では対応しきれません。だからこそ、講師と学習コーチが生徒の進捗を確認しながら、ICTを活用して個々の理解度に合わせたサポートを行うことを重視しています。

たとえば高卒クラスでは、授業で学んだ単元をAIドリル「atama+(アタマプラス)」で振り返ります。また、英語音読アプリ「ELSA(エルサ)」や記憶定着アプリ「Monoxer(モノグサ)」を導入しており、ICTコンテンツを活用した学習で、朝の学習習慣を身に付ける「朝学タイム」では、授業で扱った英文の音読を取り入れることで、単語や例文の暗記効率の向上にもつなげています。実際に生徒からは「暗記の効率の質が向上した」といった声も寄せられています。英単語など、毎日継続して行う基礎学習は、他の生徒の進捗状況も把握できるため、切磋琢磨しながら皆でがんばるという環境ができています。
岡本氏:お茶の水3号館は東大志望者を対象とした東大専門校舎であり、基本的には従来通り、講師による集団授業を中心としたカリキュラムを採用していますが、授業前の朝学タイムや自習時間、一部の授業では、ICTを活用しています。
東大入試では、共通テストの中でも特に英語と数学の得点が合否を左右します。そのため、駿台が独自開発した「S-LME(スルメ)」というアプリを活用し、共通テスト形式の問題を解かせています。このS-LMEでは、個人単位での苦手分野を可視化できるだけでなく「第1問で正答した生徒の人数」など、クラス全体の結果もリアルタイムで把握しできます。こうしたデータをもとに、講師による集団授業の内容も柔軟に調整できる点はICTコンテンツを活用している大きな利点です。
また、小テスト後にクラス別の平均点を共有するなど、ICTをモチベーション向上のためのツールとしてもうまく活用しています。

居下氏:私が勤務する現役フロンティア千葉校は、高校生専門の校舎です。高卒生クラスとの大きな違いは、「高校の授業をベースにしながらも、その補完的な役割として予備校に通学する」という点です。ICTの活用は高校ごとに差があるため、生徒ひとりひとりの学習環境に応じて、活用するツールを個別に提案し、最適な学習支援を行っています。
atama+やELSAに加え、特に高校生に活用してもらっているのが、質問アプリの「manabo(マナボ)」です。manaboは、質問をリアルタイムで投稿できるアプリで、講師が回答します。高校生は既卒生のように毎日塾に通っているわけではないため、自宅からいつでも質問できるこの仕組みは、非常に大きなメリットとなっています。

--ICT活用によって受験勉強の効率はどのように向上し、成果につながっていくのでしょうか。
添田氏:「合格したい」という気持ちを維持することは大切ですが、大学受験では戦略的に学習を進めなければ合格できません。しかし実際には、自分の勉強スタイルにこだわりすぎて、学習状況を客観的に把握できていないケースが多く見られます。
そこで活用したいのがICTです。たとえば、atama+を使うことで、自分の苦手な単元の根本原因にさかのぼり、「ここからやり直すべきだ」といった具体的な学習プランを提示してくれるので、苦手に特化したメリハリのある学習が実現できます。
暗記学習に関しても同様で、記憶定着アプリのMonoxerでは、1つの単語について訳やスペルなど、さまざまな視点から出題されるため、記憶の定着がより多面的に進みます。覚えたつもりだったけれど実はあいまいだった抜け漏れに、自分で気が付くようになり、学習効率が飛躍的に高まるのです。自分では「基礎はできている」と思っている生徒も、実際の学習データを示してどこが不足しているか伝えることで、納得して前向きに取り組んでくれることが多くなりました。

岡本氏:直前期には、駿台独自の「志望校別類題演習システム」も活用しています。これは、苦手な単元を絞り込むと、その単元に関する過去問がまとめて表示されるというものです。このシステムによって、“問題を探すための時間”が削減されることで、学習の質そのものが向上していると感じます。
居下氏:授業でインプットした知識を、ICTツールを活用してアウトプットすることで、自分の苦手を把握し、得意をさらに伸ばす。こうした学びのサイクルを生徒自身が自発的に回せるようになってきたことを実感しています。もともと予備校は、講師による集団授業=インプットを軸に成績を伸ばすスタイルが一般的で、駿台も長年その形を大切にしてきました。しかし実際には、授業だけではなく、予習・復習を含む「自学習」の質こそが、合否を左右する重要な要素です。これまでは自学習を生徒の自主性に委ねてきましたが、ICTの活用によって学習の進捗や理解度を我々職員も把握できるようになりましたね。
--ICTツールの活用について、生徒からはどのような声が寄せられていますか。
岡本氏:「苦手科目も、ゲーム感覚で楽しく取り組めるようになった」「バランス良く学習できるようになった」という声が多いです。
添田氏:「現役時代はまったく勉強していなかった」という生徒たちも、「タブレット1台あれば勉強できる」「隙間時間にも取り組むようになった」と言ってくれています。これまで学習習慣がなかった生徒も、勉強の第一歩を踏み出しやすくなったと感じているようです。
居下氏:生徒の多くが「使ってよかった」と前向きに評価しています。特に記憶定着アプリの「Monoxer」は、アプリ内で単語を効率的に覚えられると好評で、実際に成績にも反映されています。ICTを道具として終わらせないために、使い方を提案したり、モチベーションを引き出したりといった人の働きかけがあってこそ、本来の力を発揮し、個別最適化された学習につながっていくと感じます。

職員のスキルを高め、評価する「駿台ICTマイスター制度」とは
--そうしたICTスキルを体系的に高めていくために導入された、駿台ICTマイスター制度についてご説明をお願いします。
添田氏:まず、生徒が実際に使用している各種ICTツールを生徒目線で一定時間・一定レベル以上使いこなすスキルが求められます。さらにICTをどのように使うかの動画学習、コーチングスキルを身に付けるための駿台独自の検定試験「大学受験コーチング検定」もすべてのレベルの試験で満点を取得することが求められます。その後の認定試験では、アプリについて説明する動画を撮影・提出、タブレットを用いた筆記試験、論述課題、そして生徒がつまずいた際にどのようなサポートができるかというケーススタディなど、多角的な評価が行われます。これら一連の課題に取り組むのは業務時間外ですので、まさに生徒たちと同じように、移動時間や隙間時間にもタブレットを開いて、課題に取り組むくらいの意気込みでやらないと合格できません。
--それは大変な準備が必要ですね。皆さんは、それでもなぜ、駿台ICTマイスター認定を取得しようと思ったのでしょうか。
添田氏:私が勤務する町田校はプレミアムサポート専門校舎なので、ICTをフルに活用した学習支援を行っています。私は4年前からプレミアムサポートコースの学習コーチとして生徒に関わってきた経験から「これは必携の資格だ」と思いました。
岡本氏:私は、純粋に面白そうだと思いました。また、2025年度から共通テストに「情報I」が導入されることもあり、私が受験した時代にはなかった試験科目であることから、国公立大志望者を担当する立場として、「知らないでは済まされない」という思いもありました。
居下氏:私は、駿台が提供する数多くのICTツールをまずは「きちんと理解したい」と思いました。また、自身が大学受験をしてから10年以上が経っており、駿台ICTマイスターを目指す過程で、あらためて教科の勉強に触れられる点にも魅力を感じました。
「ICT」と「人」の相乗効果で、第一志望合格へ
--駿台ICTマイスターとなって感じた変化を教えてください。
居下氏:以前は「とりあえず使ってみよう」というスタンスでしたが、「なぜこのツールを使うのか」「どう使えば効果があるのか」と考えながら生徒に取り組ませる姿勢に変わってきたことです。ICTツールは、人のサポートがあってこそ最大限に生かされるもの。駿台ICTマイスターとしての関わりが、その相乗効果を生み出していると感じます。
岡本氏:私自身がICTツールを使って勉強してみてわかったのは、コンテンツの量・種類が多岐にわたり、学生1人で使いこなすことは難しい、ということです。だからこそ、駿台ICTマイスターとして「この生徒にはどのツールが必要か」「今の時期に優先すべきは何か」といった優先順位をつける視点が備わり、生徒の勉強をより効率化するための指導力が高まったと思います。

添田氏:私は、生徒と同じ目線でツールを使ってみたことで、ICTを通して学習する中で体験する気持ちに共感できるようになりました。また、ICTマイスターという役割に、説明会や入学相談の場で保護者の方から関心をもっていただく機会も増えてきていると感じます。
駿台ICTマイスター制度の大きな意義は「固定観念からの脱却」にあると思っています。大学受験も、これまでの経験に頼るだけではなく、アップデートが必要です。今後も、駿台全体で、ICTスキルの一層の向上を目指していきたいですね。
--駿台ICTマイスターとして今後の展望をお聞かせください。
居下氏:高校生と保護者の方々に、ICT活用の意義を丁寧に伝えていくことが重要だと考えています。ICTに対して抵抗感がある方にも、説明会や個別相談の場を通じて、「受験勉強においてICTはもはや欠かせない存在である」ということを伝えていきたいと思います。
岡本氏:学力上位層の生徒も、ICTツールに対して「このトレーニングは東大の2次試験対策になる」「リスニング対策として有効だ」というように、学習の目的と明確に結びつけて説明することで、納得して取り組んでいます。講師による集団授業を中心とした従来型の指導力も生かしながら、積極的にICTを活用し、我々職員はそれをサポートしていきたいですね。
添田氏:駿台が「人」と「ICT」の力を融合させながら、ひとりひとりに最適な学びを提供する場であることをもっと広く伝えていきたいです。すべての生徒に「この環境なら志望校に合格できる」と自信をもってもらうことが、今後の私たちの役割だと感じています。
--ありがとうございました。
ICT活用というと「最新ツールの導入」が注目されがちだが、業界の先駆者・駿台はその効果を引き出す「人」の育成にも注力している。質の高い講師陣、先進的なICT活用、そしてそれを生かす人の力。この3つが揃っている駿台なら、丁寧に生徒ひとりひとりの力を最大限に引き出してくれるのではないだろうか。受験生は、「ここなら任せられる」という安心感の中で切磋琢磨し、ぜひ第一志望合格をつかんでほしい。
第一志望は、ゆずれない。駿台予備学校駿台の指導力の秘訣「駿台ICTマイスター制度」駿台が使用しているICT学習ツールラインアップ