2024年に創立140周年を迎えた東洋英和女学院中学部高等部。伝統あるミッションスクールである同校は、世界で多くの人々が信仰するキリスト教の思想を大切にしながら、国際社会に求められる人間力を育んでいる。
今回は、東洋英和女学院中学部高等部 英語科教員の武井有紗先生、同校・聖書科教員で牧師でもある上野峻一先生、高等部2年のCさん、2023年度卒業生で現在ハーバード大学に進学しているMさんにお話を伺い、同校が育てている「真の国際人」とは何か、教育理念やカリキュラムなどの具体的な取組みについて伺った。
【インタビュイー】
・武井有紗先生:東洋英和女学院中学部高等部 英語科教員
・上野峻一先生:同校 聖書科教員・牧師
・Mさん:東洋英和女学院高等部 卒業生(2023年度卒)、ハーバード大学2年生
・Cさん:東洋英和女学院高等部 2年生
学校生活を通じて育まれる国際性
--東洋英和女学院にはどのような経緯でご入学されましたか。
Mさん:東洋英和女学院には小学部から通っていました。両親の海外赴任に同行した経験があり、中学進学時には国際コースや帰国子女向けコースがある学校への進学も選択肢として考えていました。ですが、音楽で溢れている東洋英和の雰囲気がとても好きで、中学部高等部へ進学することにしました。
--「音楽で溢れている」とは?
Mさん:毎朝の礼拝でも讃美歌を歌い、廊下を歩いていても誰かが賛美歌を口ずさんでいたり。校内のいろいろな場所にピアノやオルガンがあって、休み時間や授業の合間にも誰かがピアノを弾いているんです。日常の中に自然と音楽が溶け込んでいる雰囲気はやはり東洋英和しかないように思います。音楽が大好きなので、音楽で溢れた東洋英和の日々はとても心地良いものでした。
Cさん:私も小学校受験で入学しました。当時は幼かったこともあり、自分の意思というよりは両親の意向が大きかったと思います。今回あらためて両親に聞いたところ、父は「将来国際的に活躍できる人になってほしい」という思いから、世界中で信仰されているキリスト教を通じて教養を育む東洋英和を選んだと話してくれました。

--Mさんは2023年度に卒業し、9月よりハーバード大学2年生。現在の進路を決めたきっかけを教えてください。
Mさん:幼いころに海外で暮らした経験から、自然と海外や世界に対する関心はもっていました。ハーバード大学を目指そうと決めたのは高校3年生のときです。東洋英和では、英語を生かす機会が豊富にあり、国際協力を趣旨とした有志団体「TEAM(Toyo Eiwa Activities for Myanmar)」の活動でシンガポール大使館の方やミャンマーからの実習生と交流したり、国際的な場で英語を使う経験もできました。こうした経験を通じて「英語を使って世界ともっとつながりたい」という思いが強まりました。
アメリカの大学はリベラルアーツ教育なので、最初の1年間で幅広く教養を学び、2年目の9月に専攻を決めます。そうした柔軟なカリキュラムがあるところも、アメリカの大学を選んだ大きな理由です。
9月からは政治・経済を専攻したいと思っています。最初に政治に興味をもったきっかけは、中学3年生の公民の授業でした。ちょうど2020年のアメリカ大統領選が行われていた時期で、積極的に政治参加しているアメリカの若者と、日本の若者の現状を比較しながらディスカッションを行ったことがとても印象に残っています。
--現在高等部2年生のCさん。幼少から続けてきたフィギュアスケートを中心とした生活を送られているそうですね。
Cさん:小学1年生からフィギュアスケートを始め、現在も週6日練習しています。平日は2時間、休日は3時間ほど滑ます。リンクまでの往復に2時間かかるので、限られた時間を有効に使って勉強しなければいけません。
最近では海外で行われる合宿に参加することもありますが、そうした機会に1人で挑戦する決断ができたのも、東洋英和の授業ではディスカッションやディベートの機会が多く、自分の考えを伝え、相手の意見を受け止める力をトレーニングしていたから。また、東洋英和には国際的な視野をもつ生徒や海外で活躍する先輩が多く、そうしたロールモデルの存在も自分の背中を押してくれました。
国際舞台での活躍をバックアップする進路指導
--MさんやCさんの進路選択にあたって、学校では具体的にどのようなサポートをされましたか。
武井先生:彼女たちのように、自分のやりたいことに一生懸命に取り組む生徒に対して、学校が特定の進学先を勧めたりすることはありません。海外大学への進学ための準備や出願のサポートは最大限行いますが、あくまで主役は本人たち。私たちは、彼女たちが自立して進路を切り開いていけるよう、必要なサポートを柔軟に行うというスタンスです。
Mさん:海外大学の受験準備で困ったときは、学校に設置されている海外留学支援室に相談しました。ネイティブの先生や海外大学受験経験者の先生が、自身の経験などを話してくれたり、エッセイを添削してくれたりとても心強かったです。また、エジンバラ大学に通う先輩を紹介してもらい、資格試験の勉強法や受験準備について、具体的なスケジュールややるべきことを教えていただくこともでき、とても助かりました。
武井先生:本校には、さまざまな分野で活躍する先輩が後輩をサポートする「OG BANK」という仕組みがあります。たとえば、海外大学への進学希望者に向けて外国で活躍する卒業生との交流機会を設けたり、卒業生が中学生の学習をサポートするチューター制度があります。また卒業生の家庭教師を紹介したり、野尻湖で行われる本校の野外教育プログラムのお手伝いをしてもらうこともあります。卒業してからも「英和ファミリー」の一員として後輩のために貢献し続けてくれる、自らのタラント(賜物)を生かして力になってくれる、そんな卒業生が私たちの誇りであり、大切な財産です。

--Mさん、Cさんは明確な進路ビジョンをもって行動されていますが、まだ進路を模索している段階の生徒も多いのでは。そのようなお子さまには、どのようにサポートされているのでしょうか。
武井先生:おっしゃる通り、子供たちは必ずしもやりたいことがはっきりしているわけではありません。明確な目標をもつ子もいれば、もがきながらまだ探している途中の子もいます。ただ英和生に一貫しているのは「自分のタラント(才能、賜物)を生かして人のために役立ちたい」という思いです。本校の進路指導では、ひとりひとりと将来像についてじっくり話し合い、迷いながらも自分の道を切り開けるようしっかり支えています。
--具体的にどのような教育を通じて、生徒たちの力を育んでいるのでしょうか。
武井先生:私たちが大切にしているのは「真の国際人を育てること」。これは単に英語を話せることではなく、自分の意見をもち、相手の意見も尊重できる国際人としての資質を身に付けるということです。
たとえば、本校では「WR(Writing&Reading)」という授業があり、エッセイの書き方やディベートを通して、英語の運用能力だけでなく、思考力や表現力を養います。1つのテーマに対し、賛成・反対いずれかの立場を割り当て、議論を進めます。自分の本音とは異なる立場であっても、その立場に立って説得力のある主張を構築しなければならず、多角的に物事を捉える訓練になります。
リーディングでも、ただ文章を読むだけでなく、その内容について「自分はどう考えるか」「そこから何が言えるか」といった問いに向き合い、自分の言葉で表現することを重視しています。最終的にどちらの意見が正しいかを決めることが目的ではなく、異なる意見や価値観を共有することがこの授業の本質です。
英語を翻訳したり情報を調べたりするだけならAIがいくらでも代行できる時代だからこそ、自分自身が何を感じ、どう考え、どう伝えるか。その力を育てることが、本校の英語教育の大きな柱となっています。
キリスト教教育が心の拠りどころに
--海外で活躍する「真の国際人」を育成するうえで、キリスト教の教えはどのように関わっているのでしょうか。
上野先生:本校では日々の学校生活の中で、「神を愛し、隣人を自分のように愛しなさい」という聖書の教えをもとに「敬神奉仕」の精神を大切にする生き方を体験的に学びます。もちろん聖書の授業で知識としての教えも学びますが、卒業後に大切になるのは「生き方のセンス」。学校生活を通して、一貫した雰囲気や環境、友人や先生との関係性のなかで自然と養われていくものです。
それに加え、英和生は、毎朝の礼拝や行事、聖書の授業の中で「あなたは神さまに愛されている」と、言葉で繰り返し伝えられます。この言葉掛けゆえか、本校には、自分のタラントを信じてチャレンジをする、自己肯定感の高い生徒が多い印象です。
私たちが目指す「真の国際人」とは、語学力や知識だけでなく、「自分は愛されている」という確信をもち、隣人を自分のようにを思いやる心をもった人。そうした生徒が本校から育っていくことを願っています。

Mさん:上野先生のお話を聞いて、これまで「私たちって根拠のない自信に溢れているよね」と笑い合っていたものが、実は英和で育まれた「根拠のある自己肯定感」だったと気付きました。
アメリカの大学に進学するとき、不安や迷いがまったくなかったわけではありませんし、今回の一時帰国も、昨今のトランプ政権による留学生排除の流れもあって、帰国するかどうか迷った時期もありました。でも、結局どんなときも「大丈夫、なんとかなる」と思って、挑戦してみることにしているんです。
この私の思いきりの良さと自信の後ろ盾には、英和で得た「神様に愛されている」感覚があるのだと、今日気付くことができました。たとえ何があっても自分で立ち上がれる、そして頼れる家族や先生、友達がいる。そういう支えがあるから、これまでも、これからも不安なときも前を向いて進んでいけるんだと思います。
--心理的安全性の保たれているからこそ、伸びやかにチャレンジできるのですね。聖書科では、具体的にどのような授業を行うのでしょうか。
上野先生:僕の聖書の授業では、聖書の内容や思想を「現代の問題」に置き換えて考えます。たとえば、イエス・キリストが十字架で死刑になったのは、今で言えばえん罪だよね、という話をきっかけに、死刑制度についての意見交換を行います。単なる宗教の話ではなく、過去の聖書の教えを現代の文脈でどう受け止めるかを学ぶことに主眼をおいています。
聖書の授業は全学年必修で、高校課程では新興宗教の問題や人工妊娠中絶の是非など、難しいテーマにも触れます。ただ単に「これが正しい」「これはダメ」という答えを教えるのではなく、聖書の教えをベースに自分で考え、自分の意見をもつことを促しています。生徒に「あなたはどう考えますか?」と問いかけ、解答例こそ示しますが、それに反発したり、自分の考えを自由に表現することも認めます。「神様を信じない」というスタンスも問題ありません。
私の授業では、授業後にフリーコメントも書いてもらい、疑問や感想に対しては必ず返信をするようにしています。時には次の授業でその内容を扱ったり、深い問いについてはさらに掘り下げて考えたりすることもあります。生徒ひとりひとりが自分の頭で考え、信仰や生き方について自由に対話し、自分なりの答えを見つける場をつくっています。
「敬神奉仕」の精神を胸に、世界を舞台に輝く
--東洋英和での学びを糧に、将来どのようなキャリアを歩みたいと考えていますか。
Mさん:中高時代を過ごし、国際交流や英語を活かしたさまざまな活動に取り組んできたこと、ミュージカルを行う音楽部の活動やクリスマスの合唱、体育祭など、仲間と何かを成し遂げる経験を通じて「みんなで何かをつくり上げる」ことが自分の中のテーマになっています。
将来は、日本と世界をつなぎながら、みんなと協力して何か新しいことを生み出すような仕事に携わりたいと考えています。今の世界の状況を見ると、国同士の協力体制が崩れつつあり、孤立が進んでいるように感じます。だからこそ、もう一度、お互いの立場や背景を理解し合い、協力していく仕組みをつくり直すことができたらと思っています。

Cさん:ようやく志望大学が定まってきたところで、将来についてはこれから少しずつ描いていく段階です。ただ、東洋英和で過ごした日々の中で、「敬神奉仕」という学院標語のとおり、誰かを助けたり、助けてもらったり、そんな経験を日常の中でたくさん積み重ねてきました。東洋英和には、自然と愛を受け取り、与え合う空気があって、その中で育ってこられたことが私にとって大きな土台になっています。だからこそ、自分ひとりが活躍するのではなく、誰かのために何ができるかを大切にしていきたいと思っています。
また、ずっとフィギュアスケートを続けてきたからこそ、スポーツがもつ力も実感しています。気分が沈んでいても少し体を動かすだけで前向きになったり、仲間と一緒に練習し、本番で力を合わせることで得られる一体感や達成感も、スポーツならではの魅力です。将来はスポーツを通じて人を笑顔にできるような、世界を舞台にそんな仕事ができたらと思っています。
--東洋英和女学院中学部高等部を目指す受験生に、メッセージをお願いいたします。
Mさん: 私は「学校は実験室」というフレーズが大好きです。やってみたいことは何事でもチャレンジしてみれば、なんらかの形で実現できる。「無理だよ」と否定されるのではなく、「どうやったらできるか?」と一緒に考えてくれる。そんな、挑戦に前向きで、マジカルな空気が常にあるんです。
私が学校生活の中でキーワードにしていたのは「Why not?」。「なぜやるの?」ではなく、「やってみたら良いじゃない!」という精神です。それは今も私の中に息づいていて、アメリカに渡ってからも「まずやってみる」ことを大切にしています。冒険ができるのは学生の特権です。皆さんも、東洋英和で最初の一歩を思いきり踏み出してほしいと思います。
Cさん:今日インタビューを受けながら、あらためて「本当にこの学校に来てよかった」と心から思いました。東洋英和には、先生方の温かなサポートやキリスト教に基づく教育、生徒同士の優しい雰囲気があって、どれもこの学校ならではの魅力です。自信をもって「東洋英和は間違いないよ」と伝えたいです。

--先生方から、受験生の保護者の皆さまにメッセージをお願いいたします。
武井先生: 今日のようにキラキラと語る卒業生の姿を見て、「うちの子にそこまでできるかな」と不安に思われる保護者の方もいらっしゃるかもしれません。私自身も娘をもつ母として、保護者の皆さまの気持ちはよくわかります。でもご安心ください。大切なのは「何を目指すか」よりも「自分の人生を大切に歩む力」を身に付けること。東洋英和で過ごす6年間を通して、どんなに小さな一歩であっても、自分の「好き」や「得意」を見つけ、それを社会の中で生かせる女性に育っていけると信じています。
上野先生:お子さまの進路について悩んだとき、いちばん大切なのは、まずその子自身の「願い」や「想い」を、保護者の方がそのまま受け止め、愛してあげることだと思います。東洋英和は「決まったレール」の上を歩かせ学校ではありません。誰かの期待に応えるためだけに進むのではなく、自分自身の意思で「どう生きていくか」を考え、行動することを応援する学校です。ときには思い描いていた進路とは違う道を選ぶお子さんもいるかもしれませんが、「自分の生き方を自分で決める力」が育つと信じて見守り、送り出していただければと思います。

--本日はありがとうございました。
「親として、お子さまの選んだ道を信じ、見守ることは簡単なようで難しいかもしれません。でも、東洋英和で見つけた喜びや幸せを、自分のことのように一緒に喜んであげてほしい」と上野先生は温かな眼差しで語る。
信じ、見守り、共に喜ぶ。この想いが、東洋英和の教育の真髄だ。キリスト教精神に根ざした「敬神奉仕」の理念と、確かな国際教育で、生徒ひとりひとりの未来を支え続ける。そこには、真の国際人を育てる揺るぎない信念と、伝統に培われた深い愛情がある。
東洋英和女学院 中学部高等部