電通が仕掛けた「アクティブラーニング」研究所、その目的は?

 アクティブラーニングとは何か。電通の蓄積、アイデア・発想力が結集した「電通総研アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所」所長を務める倉成英俊と、キリーロバ・ナージャ氏に、話を聞いた。「受けてみたかった」新しい授業の試みが、ここにある。

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「電通総研アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所」所長の倉成英俊氏
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 「電通総研アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所」。なんとも不可思議な名称の研究所が10月15日に発足した。昨今の学校教育において取組みが進められている「アクティブラーニング」だが、果たしてアクティブラーニングとは何を指すのだろうか。

 研究所の立ち上げ経緯や今後の活動について、所長を務める倉成英俊氏と研究所スタッフであるキリーロバ・ナージャ氏に話を聞いた。

◆数十年培ってきた電通の「考える」「伝える」力

--「電通総研アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所」発足のきっかけを教えてください。

倉成氏:広告小学校の共同研究者である大熊先生から「電通のノウハウで、アクティブラーニングで何かできるのでは」と連絡を頂いたことがきっかけで研究所を立ち上げました。お話を頂いた時は、ちょうど自分が発案し行っていた「変な宿題」というワークショップを提供する会社を“週末起業”のような形で立ち上げることを考えている時期でした。

 そして、現在の研究所スタッフのナージャをはじめ一緒にやってくれるスタッフが僕のアイデアに賛同してくれ、「電通総研アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所」を発足させました。もともと電通には、アクティブラーニングにつながる数十年分のノウハウがいくつかあり、アクティブラーニングというものを意識していなくてもそれに使えるノウハウや蓄積がたくさんありました。

 たとえば、「広告小学校」があげられます。これは「発想力」「判断力」「表現力」「グループによる課題解決能力」を鍛え、コミュニケーション力をつける授業プログラムで、電通の社会交連活動のひとつです。

 それから、NPO法人などに向け、自分たちのやっていることを他者にわかりやすくまとめる「伝えるコツセミナー」や、25年ほど前から行っている「日中プロジェクト」もあります。これは中国の大学の広告学部などで電通のメンバーが客員教授としてノウハウを教えるもので、僕も3年前に行きました。現在は、研究所スタッフの森口哲平が引き継ぎ、アイデアソン、ハッカソン的なことを続けています。

 電通名物の「CRテスト」もアクティブラーニングのひとつです。「CR」はクリエーティブの略。電通に入社した際必ず受けるテストで、僕の場合は「1週間が8日なら何をしますか」という問題でしたね。こういった答えのない問いで、発想力やアイデアの数、ひとりよがりではない客観性などを判断し、クリエーティブ局の選抜が行われます。

 そのほかにも、子ども向けプロジェクトも実施しており、今夏は森永製菓とJAXAとともに「おかしな自由研究」と題したパッケージのお菓子もつくりました。こういったさまざまなノウハウを研究所で生かし、何かできないかと考えたのです。

◆多種多様なスタッフが旗上げ、世界6か国のアクティブラーニングを生かす

--研究所の名前はとてもユニークですね。

倉成氏:こんな名前でいいのかって話もありますが(笑)。でも、「電通総研アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所」の目的と意味は、この名前とロゴにすべて集約されています。

 教育には答えがない。今の「おもしろい教育」というムーブメントには大賛成。すべて"アリ"で、なんでもアクティブラーニングにする。研究所とはつまり、学び(ラーニング)のアクティブ化をサポートするチームです。その答えが、「こんなのどうだろう」ということです。

--どのようなスタッフが携わっているのですか。

倉成氏:「ピタゴラスイッチ」企画・制作に携わったコピーライターの舘林恵、教育免許をもち少年野球の監督も務めてきたプロデューサーの伊東美晃、「マツコロイド」や子ども向けボードゲームの開発を行っているディレクターの大山徹、中国の大学でデザインを教えていた森口哲平、そして世界のコピーライターランキング1位で広告賞の審査員も務めるキリーロバ・ナージャと、所長の僕と計6名です。

 また、共同研究者として東京学芸大学の小林正幸教授と、広告小学校でも共同で研究をしていたカウンセリング研修センター「ブレイブ」室長の大熊雅士先生がいらっしゃいます。ナージャはソ連出身で、ロシア、日本、イギリス、フランス、アメリカ、カナダと世界6か国で体験してきたアクティブラーニングを、今後実践に生かしていきます。

ナージャ氏:アメリカでは小学生で「ベイクセール」という行事があり、パンの売り方を自由に競い、発表するという授業がありました。また、カナダでは家庭科の授業で両親に自分の教育費がどのぐらいかかっているのかをヒアリングする授業を受けました。そのあまりの高額さにみんなビックリして、生徒たちが急に勉強を始めたのが印象的でした(笑)。

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《相川いずみ》

教育ライター/編集者 相川いずみ

「週刊アスキー」編集部を経て、現在は教育ライターとして、ICT活用、プログラミング、中学受験、育児等をテーマに全国の教育現場で取材・執筆を行う。渋谷区で子ども向けプログラミング教室を主宰するほか、区立中学校でファシリテーターを務める。Google 認定教育者 レベル2(2021年~)。著書に『“toio”であそぶ!まなぶ!ロボットプログラミング』がある。

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