どう変わる?最新データから紐解く2024~2025年度医学部入試の行方

 2023年2月5日に大阪・梅田で開催された名門会主催「医学部入試ガイダンス」。最新の共通テストの結果や学習指導要領改訂などを踏まえ、膨大なデータを有する駿台予備学校・進学情報事業部長 石原賢一氏による講演のようすをレポートする。

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「医学部入試ガイダンス」のようす
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 2023年2月5日、大阪・梅田のサウスホール・大ホールにて、完全1対1の個別指導で多くの医学部合格者を輩出する名門会主催「医学部入試ガイダンス」が開催された。

 2024年度、そして2025年度の医学部入試はどのように変わるのか。今年の大学入学共通テスト(以下、共通テスト)の結果や学習指導要領改訂などを踏まえ、膨大なデータを専門的に分析した見解を、駿台予備学校・進学情報事業部長 石原賢一氏が語った。

 石原氏は長年にわたり、受験生の膨大なデータと現場での肌感覚の両局面から、いち早く大学受験の最新動向を捉えてきた指折りのプロフェッショナル。本講演で石原氏は、医学部受験を考えている高校生とその保護者に向け、「医学部合格を着実に勝ち取るためには、情報と意識のアップデートが必要だ」と強調した。2024年度、そしてその先の2025年度医学部入試に向けて必ずおさえておくべき動向の他、模試の活用法や今後の心構えなどについて語った。

大学全入時代でも、医学部入試は難化

 50歳前後の今の親世代が受験生だった約30年前に比べ、少子化の進行で受験人口は約半分。受験人口を入学定員で割った倍率は1.0を割り込み、日本の大学はまさに「全入」の時代となっている。特に私立文系は入学までのハードルが著しく下がり、ここ3年ほど実質倍率が5倍を超えていたが、関東の早慶、GMARCH、関西の関関同立といった人気校でさえも、昨年は3倍程度だったという。

 また、大学入学共通テストの志願者数のデータから、現役生が占める割合についても言及した。最新の2023年度は現役の受験生が占める割合が85.2%となり、過去最高だった前年度の84.7%からさらに0.5%アップしたという。

受験人口のピークは1992年度の約121.5万人。2023年度は約65.0万人だった

 石原氏はこれらのデータを分析し、その背景として、「今の受験生は、浪人覚悟でハイレベルな大学にチャレンジすることを避け、無理をしない。一般入試を待たずに学校推薦型選抜や総合型選抜(旧:AO入試)などで早々に進学先を決める傾向も高まっている」と指摘。「親世代のころと比べ、今は大学受験全般が非常にゆるくなっている」と言う。

 一方、石原氏は「医学部入試はまったくの別物」とも話す。受験人口減少の影響で、あらゆる学部が軒並み志願者を減らしている中、医学部は依然として志願者が多い

 「だからこそ絶対に忘れてはいけないのが、周りの(他学部受験生が醸し出す)空気に負けないこと。医学部受験でも現役合格が増えているとはいえ、他学部に比べ、依然として浪人が多いのは、それだけ難関であるという証拠です。医学部受験生が合格を勝ち取るには、昨今の大学受験におけるゆるい空気に流されず、主体的に勉強に向かっていく強い意志が必要です」(石原氏)

共通テストでも医学部合格には高得点が必須

 2022年度は文系・理系ともに平均点が5割台となり、難化が大きな話題となった共通テスト。ところが、先月実施されたばかりの2023年度はむしろ易化し、平均点が6割前後ともち直した。英語、公民、生物が平均点を下げたものの、前回平均点を下げた数学が大幅にアップした結果だ。

 石原氏は、来年度以降の共通テストの難易度について、今回の「2023年度並」に落ち着くだろうと見込む。しかし同時に、「共通テストは保護者のころの共通一次やセンター試験とはまったく異なるもの」と釘を刺す。今年で3年目となった共通テストも、いまだ過渡期であり、保護者はもとより、塾や学校の教員でも、この「共通テスト」というものを正しく理解している人は少ないと石原氏は嘆く。

「共通テストの出題は、暗記して身に付けた知識だけでは解けないものが増えている」(石原氏)

 「共通テストは、教科書には出てこないような実社会に即したテーマについて、大量の資料を読ませ、複数のテキストを考察しながら、教科の知識を使って解き明かしていくというもの。保護者世代に馴染みのある、かつての試験とは異なり、教科書を暗記して身に付けた知識だけでは解けない問題が増えています。したがって、センター試験の過去問をいくら取り組んでも解けるものではありません」

 これから医学部を受験する予定の高校生とその保護者は、今すぐ大学入試センターのホームページから問題をダウンロードしてみると良い。問題文の圧倒的な長さや、教科書には出てこないような題材などを見れば、石原氏が言わんとすることがすぐにわかるだろう。

 「全体の平均点が下がったとしても、医学部受験生であれば、センター試験と変わらず高得点が取れなければ合格は難しいと言わざるをえません。最近の医学部は面接に時間をかけるため、第一段階選抜で通過予定人数を絞り込む傾向があり、共通テストの点数はますます重要になります。少々残酷ですが、共通テストはできる人とできない人の差を広げる試験と言えるでしょう。

 では共通テストでどうすれば高得点が取れるのか。そのためには、共通テストに求められる読解力、思考力、判断力をしっかりと伸ばし、情報処理能力を高めること。これは国公立大学の2次試験や私立大学医学部の入試にも通じる力であり、さらには将来、医師として求められるもっとも重要なスキルです」

「情報I」をはじめとする新課程、恐れる必要なし

 2022年度に学習指導要領が改訂されたことを受け、共通テストは現高校1年生が受験する2025年度から新課程に対応する。そこで今、もっとも不安要素とされているのが、新たに導入される科目「情報I」だ。プログラミングやデータ活用などを学ぶ「情報I」は、2022年度から高校の必履修科目になったものの、各高校での情報科教育の体制や、難易度や学習度のばらつきなど、不安が大きいのが現状だ。そんな中、国立大は基本的にほぼすべての大学で必須科目として利用される予定と発表されている。

「新課程は実は大改革ではなく、恐れる必要はない」(石原氏)

 さらに、国語で古文・漢文の配点が各50点から各45点満点に変更される一方、現代文の配点が100点から110点満点と増え、新傾向問題が加わること、数学II・Bも数学Iと数学I・A同様に試験時間が70分となることをはじめ、他の英語、理科、社会の主要科目にも新課程が反映される。

 一見、大きな変化を伴うように見える新課程の影響。不安が広がり、現高校2年生が浪人を避けるとともに、現高校1年生も挑戦せず、手堅い受験先を選ぶといった安全志向に走る傾向が予想される。

 しかしながら、この点について石原氏は、「新課程を恐れる必要はない。第一志望を妥協してはいけない」と言い切る。

 「新規導入科目の初年度は易しく、たとえば2006年度のセンター試験で英語にリスニングが導入された際は、得点率の平均が72.5%もありました。情報Iについても、学校による格差といった実情を考慮し、同様の措置が取られるはず」と石原氏は話す。現に、北海道大学、香川大学、徳島大学は、共通テストにおいて「情報I」の受験を必須とするが、配点しないと発表している。

 「さらに、現高校2年生は、たとえ浪人をしても旧課程での受験が可能です。2025年度の試験を過度に怖がる必要はありません。新課程に対応した試作問題も、すでに大学入試センターのホームページに公開されています。現高校1年生以降、新課程に対応した共通テストを受ける予定の人は、複数の文章やグラフの内容、要旨を適切に解釈する力、複数の意見とその根拠を整理する力など、どのような力が求められているかを早めに確認しておきましょう」

客観的な受験勉強のための模試活用、3つのコツ

 続いて、模試の活用法について語られた。特に医学部受験の場合、各大学の定員が大体100名前後という狭き門のため、模試を受けて自分の学力の客観的な評価を得ることには、受験勉強を進めるうえで大きな意味がある。

 石原氏からは、模試の活用における3つのコツが紹介された。

 1つ目は、個人成績表の活用

 「たとえば駿台全国模試の場合、全国、そして学校内での位置を把握するのはもちろん大事ですが、設問別成績も良く見ておくこと。全国平均と見比べながら、苦手分野をしっかり確認しましょう。

 また、科目別偏差値のグラフからは、科目間のバランスを確認することも重要です。特に医学部合格には、不得意科目を強化し、総合力を引き上げることがいちばんの近道です。

 そして、志望大学判定についても細かく見る必要があります。同じB判定でも、A判定に近いのか、C判定に近いのか。あと何点取れば、判定が良くなるのか。ライバルと比べた自分の位置を把握し、個人成績表の1ページ目と合わせて、判定評価を上げるために必要な課題は何かを洗い出してください

 2つ目は、採点講評の活用。駿台の模試は、受験から約1か月後、個人成績表とともに渡される「採点講評」に、復習時に注意すべきポイントが網羅されているという。

 「模試の直後は『解答・解説集』を読みながら復習をすることになると思いますが、約1か月後にも返却された自分の答案と照らし合わせながら『採点講評』を熟読して、再び全体を見直す機会を設けてください。PDFでも読めるので、必要な箇所をまとめて、自分専用の復習ノートを作っておくと良いでしょう」

 そして3つ目は、自己採点の練習としての模試を活用すること。

 石原氏は「(自己採点の練習は)何度やっても損はない」と、毎回本番のつもりで向き合うことを勧める。

 「曖昧な解答控えの場合、自己採点がどうしても甘くなりがちなのです。特に共通テスト本番では、こうした自己採点の甘さで第1段階選抜ラインを予想できない悲劇が毎年のように起きています。日ごろから細心の注意を払って練習しておきましょう」

「模試は良問揃いの、最新で最強の教材」と語る石原氏

 模試は志望校の合否を占い、舞い上がったり、諦めたりするためのものではない。出題者が最新の入試動向を踏まえて作成した良問揃いの「最新で最強の教材」なのだ。

 「模試の活用は、医学部合格には欠かせないプロセスです。冷静に結果を分析し、自分の弱点を把握したうえで、出題者の意図をしっかり汲み取りながら復習することが大切です」

保護者の弱気は厳禁、直前まで伸びるわが子を信じる

 最後に石原氏は、医学部入試を突破するために、受験生と保護者が日ごろからもつべき心構えを示した。

 まず受験生に向けては、「今の学力は入試日の学力ではありません。今頑張らずに、いつ頑張るのか。夢はチャレンジしなければ掴めないもの」と喝破した。

 また、保護者に対しては、「受験生は入試直前まで伸びるので、第一志望は変えさせてはいけません。保護者の弱気は、生徒の学力伸長にとって大きなマイナスになります。『わが子に苦労はさせたくない』と話す保護者は、実は自分が苦労したくないだけでは?」と自問自答を促した。

 そして、「医師は、現役を引退するその日まで、絶えず多くの困難と向き合っていかなければいけない仕事です。医学部受験はそのための第一歩。努力しさえすれば、あなたの『席』は、然るべき場所に必ず用意されています。どうかあきらめないで頑張ってほしい」と結び、会場を訪れていた多くの親子を激励した。


 医学部受験は情報戦だ。医学部入試をめぐる環境は刻々と変化している。さらに、学習指導要領の改訂に伴い、求められるスキルも親世代とは大きく異なるものへと変わっている。今しばらくは教育の過渡期。情報だけでなく、マインドセットにもアップデートが必要だということを忘れないようにしたい。

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《加藤紀子》

加藤紀子

京都市出まれ。東京大学経済学部卒業。国際電信電話(現KDDI)に入社。その後、渡米。帰国後は中学受験、海外大学進学、経済産業省『未来の教室』など、教育分野を中心に様々なメディアで取材・執筆。初の自著『子育てベスト100』(ダイヤモンド社)は17万部のベストセラーに。現在はリセマムで編集長を務める。

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