駿台「難関大学フェア」参加登録者数は過去最多…教授自ら研究・学びの魅力語る

 駿台予備学校は2023年10月1日、難関国公立・私立大学が参加する「難関大学フェア」を4年ぶりに開催した。参加登録者数は過去最多。来場した参加者たちに、大学教授による講演や大学別個別相談会、ガイダンスなど充実したプログラムを1日通して提供された。

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駿台「難関大学フェア」参加登録者数は過去最多…教授自ら研究・学びの魅力語る
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 駿台予備学校は2023年10月1日、東京大学や早稲田大学、慶應義塾大学など難関国公立・私立大学が参加する「難関大学フェア」をお茶の水校2号館にて開催した。同フェアは大学教授による講演会や大学別個別相談会、大学入試担当者によるガイダンスなど豊富なプログラムを1日通して実施するもので、コロナ禍を経て実に4年ぶりの開催となった。今回は過去最多の1,200人もの参加登録があり、当日は受験生をはじめ、難関大学を志望する中高生や保護者たちも朝早くから来場し、熱心に聴講・相談するなどして、志望校へのモチベーションをさらに高める機会となった。

充実したプログラムで難関大学の魅力や入試情報を発信

 本フェアは、難関国公立・私立大学の教授・担当者による講演会やガイダンス、大学別個別相談会、英語特別授業、駿台入試情報説明会・個別相談コーナーなどの充実したプログラムで、各大学の魅力や入試の詳細を知ることができるイベント。毎年の恒例行事であったが、近年はコロナ禍による開催中止を余儀なくされ、今年は実に4年ぶりの開催となった。満を持しての同フェア開催に、志望校選択の最盛期であることも相まって、コロナ以前を上回る参加申込みがあったという。受験生のみならず、中高生やその保護者など1,200人もの登録があり、当日の会場は多くの熱心な親子で盛況だった。

朝早くから会場となるお茶の水2号館に向かう参加者たち

 フェアに参加した大学は、国公立大学が東京大学・京都大学・東京工業大学・東京外国語大学・一橋大学・東北大学・筑波大学・千葉大学・横浜国立大学の9校私立大学が早稲田大学と慶應義塾大学の2校の計11校。各校はそれぞれ大学教授による講演会、大学入試担当者によるガイダンス、大学別個別相談会を展開した。

 大学教授による講演会では、東京大学・理学系研究科地球惑星科学専攻教授の佐藤薫氏や同大学・教育研究科教授の田中智志氏、東京工業大学・生命理工学院教授の蒲池利章氏、京都大学・大学院経済学研究科教授の依田高典氏、早稲田大学・政治経済学術院准教授の高橋百合子氏など、7大学の教授による計8講座を実施。それぞれの教授が、自身の研究内容や各学部・研究科で学ぶ内容、学生への期待などについて、参加者に紹介した。教授から直接各大学の学びの魅力について聞ける機会は非常に限られていることから、参加者は皆熱心に聴講していた。

 本記事では、同フェアで実施された大学教授による講演会から、とりわけ参加者の注目を浴びていた東京大学・理学系研究科地球惑星科学専攻教授の佐藤薫氏および、東京大学・教育学研究科教授の田中智志氏による2講演の概要を紹介しよう。

佐藤薫教授が語る、東大理学部の魅力…「大気における物理」を極める気象学

 東京大学・理学系研究科地球惑星科学専攻教授の佐藤薫氏は「南極から探る大気大循環の研究」と題して講演。南極昭和基地の巨大な大気レーダーなどで観測した「大気重力波」が関わる大気大循環の変動の研究をはじめ、日本南極観測隊の概要、東京大学理学部の学びなどについて紹介した。

東京大学・理学系研究科地球惑星科学専攻教授の佐藤薫氏

 佐藤氏はまず自身の専門の大気物理学(気象学)について概観し、同じ研究室の先輩の眞鍋淑郎博士が2021年にノーベル物理学賞を受賞したことに触れた。眞鍋博士は気候変動問題において、当時まだ計算能力が限られていたコンピュータを駆使し、世界に先駆けて放射過程を大気大循環モデルに組み込む方法を確立。大気中の二酸化炭素濃度が地球温暖化に大きな影響を与えていることを突き止めた。眞鍋博士の研究をよりわかりやすく伝えるために、佐藤氏は「放射平衡」の仕組みを紹介。「放射平衡」は、太陽から地面に受ける放射エネルギーと、地面からの赤外放射のエネルギーが釣り合うというものだが、実際には水蒸気や二酸化炭素、メタンなどを含む温室効果気体を含む大気が存在するために、この大気自体からも宇宙と地面に向けてエネルギーが放射されているという。地面は太陽と大気からの両方の放射を受けることにより、それと平衡するために地表から赤外放射を行っており、この温室効果によって温かい地球が保たれているという仕組みだ。

 眞鍋博士はこの放射平衡モデルについて、さらに細かく、温室効果気体それぞれを式に適用して計算。地球の気温プロファイルがおおむね水蒸気と二酸化炭素、オゾンに依存していることを明らかにし、1970年代に二酸化炭素が倍増すると地上気温が約2.3度上昇すると試算した。これをきっかけに、眞鍋博士が現在世界中で使われている温暖化予測モデルの基盤を構築したことが高く評価されたと語った。

教授本人から研究内容や大学の魅力を聞くことのできる貴重な機会

 続いて、佐藤氏は自身の研究内容を紹介。地球の上空100kmまで広がっているよく混合された「大気の物理」を調べるのが気象学と説明した。北極・南極といった極域の大気温度は、高さ90kmの中間圏にて夏の白夜に低温となり、高さ50kmの成層圏にて冬の極夜に高温となる構造をもつ。最近発見された冬の北極成層圏と夏の南極中間圏の気温の連動現象のメカニズムを研究しているという。一般的に大気は下層ほど気圧が高く、上層ほど気圧が低いが、ここに上昇流があると気圧が高いところから低いところへ移動するため断熱膨張が起きて低温になる。逆に下降流があると断熱圧縮になって高温となる。こうした流れと気温変化がグローバルな大気の中で起こっているという。そうした動きを踏まえて地球上の大気の流れをみると、下層の成層圏では熱帯から両極に向かう循環が起こり、上層の中間圏では夏極から冬極へ向かう循環が起きている。この駆動を担っているのが、大気波動であり、主に成層圏循環を駆動しているのが大きな波の「ロスビー波」、主に中間圏循環を駆動しているのが小さな波の「大気重力波」だという。大気中の波動はこの2種類のみに分類されるとのこと。

 佐藤氏は2008~2009年に発生した大きなロスビー波により、これらの循環が非常に強くなり、北極成層圏で冬に突然50度以上気温が上がる突然昇温が起き、それが2万km離れた南極の中間圏突然昇温を引き起こしたことを受け、中間圏の大気大循環の物理について調査することにした。調査にあたり、南極昭和基地に設置された大型大気レーダーでの観測を実施するため、自ら第60次南極観測隊に参画世界中の共同研究者に協力を仰ぎ、世界各地に点在する大気レーダーでも同様の観測を行う国際共同観測を実施し、大気重力波を精密に測定した。南極におけるフルシステム連続観測と、その観測結果をもとにした高解像大気大循環モデルでのシミュレーションにより、重力波を再現。強いロスビー波の流入によって北半球突然昇温が発生すると、重力波により駆動される中間圏循環が全体として弱まり、南半球上部中間圏の昇温が引き起こされるという南北両半球結合のメカニズムを示すことができたという。

佐藤薫氏の研究内容(当日の投影資料より)

 佐藤氏は最後に「東京大学理学部は、森羅万象の『理』を探求する学部であり、自然界への興味や好奇心がある人に向いている」と述べた。とことん考える力、「ゼロ」から創り出す力、臨機応変力、さまざまな発想や個性を大切にしていると伝え、同時に参加した女子学生に向けて「世界では多くの女性が理系の仕事で活躍している。ぜひ女性も挑戦してほしい」とのエールを送った。

田中智志教授が語る、東大教育学部の魅力…「感性豊かな知性の形成」を目指す学問

 続いて登壇した東京大学・教育学研究科教授の田中智志氏は「先進と批判―感性豊かな知性の形成」と題して、東京大学教育学研究科・教育学部で実践している、批判的(哲学的)検討や、形成を目指している「感性豊かな知性」などについて説明した。

東京大学・教育学研究科教授の田中智志氏

 田中氏はまず、同研究科・学部で実践していることとして、常に最先端の研究を行うと同時に、研究の基礎に置かれている考え方を批判的・哲学的に検討しているとし、前提となっている認識を根本的に問い直すことの大切さを紹介した。そのうえで、今私たちが直面している地球的規模の問題に対し、国家や地方、企業、個人などのさまざまなレベルで対処策が検討されていることに関しても、教育学ではこれを根本的に考え直し、人間と自然の関係を根底から問うことによる感性豊かな知性の形成を目指す必要があると述べた。

 次いで、田中氏は自身の研究内容を紹介。教育思想史と教育臨床学を専門としており、前者はおもに欧州における教育に関わる概念の歴史をひも解くもので、たとえば完全性や人格、人間性、理性など「良さ/善さ」を意味する概念の意味を深めているとした。こうした概念の歴史を知っておくと、現代の欧州における教育理論が非常に理解しやすくなるという。また、意味を深める方法として「臨床哲学」で捉え直すことを挙げた。臨床は「床に臨むこと」、そこに横たわっている人間との交感、すなわち自己と他者との間におのずから生じる気持ちの分かちあいを礎とするものだと解説。自己と他者の区別をなくし、感情の広がりを感じ合う交感の営みが教育の根底にあると語り、これを教育の土台に据えることで教育をより良いものにしていけるとの考えを述べた。

真剣な眼差しで講演を聞く参加者たち

 それを踏まえて、人間が直面している自然環境の問題を臨床哲学の視点で眺めると、人間と自然の関係を捉えなおすことができる。とりわけ「海はすべての生命の起源であり、生存可能性の基礎である」とした「海洋教育」は、まさに臨床哲学の立場を引き継いでいるものだと説明。海洋教育は、人間と自然との関係が「所有・利用するもの」ではなく「享受し共生するもの」という新しい倫理的スタンスにシフトすることを目指しているものだとし、この「享受し共生する」関係の基礎が感性豊かな知性にあると田中氏は解説した。

 続いて、田中氏は、床に臨み、他者と分かち合うために必要な「感性豊かな知性」の形成についても紹介。感性の豊かさとは「見えないものを想像すること」であり、その一例としてゴッホの絵「一対の靴」を見たドイツの哲学者・ハイデガーの言葉を紹介した。ハイデガーはゴッホが描いた一対の靴の絵から感性豊かに「靴という道具から伝わり響いてくるのは、大地の黙然たる呼び声、この一対の靴という道具は、大地に聴き従う農夫の世界の内に保たれている」と心象を想像したという。また、日本の画家・野田弘志氏が描く「鳥の巣」の絵が見る人に想像を掻き立たせることも紹介し、鉛筆で描かれた灰色の「鳥の巣」は、絵を見る人に「雛」と「親鳥」という見えない命を想像させると述べ、このような感性豊かに見えないものを想像する思考や自由な思考を喚起する教育が大事になると指摘。そのためにも、教師という存在は、子供自身にある知性を信頼し、交感を礎として、これまでのような「知っていることを教える」教育ではなく、子供の自由な思考、感性豊かな知性を活性化し、学ぶ人の知性を刺激する者としてあるべきではないかと問題提起した。そして、そのような子供自身の思考の自由を喚起する教育こそが新たな知を創出する可能性があるだろうと述べた。

感性豊かな知性的想像力の大切さを参加者に語る田中氏

 東京大学における教育学研究では、教育に対してこのような思想・哲学からのアプローチの他にもさまざまなアプローチが行われており、それぞれの独自性が大切にされていることから、自分に合ったアプローチを選び、学ぶことができると魅力を語った。そして「教育学を学ぶ学生には、詩情をもって、感性豊かな知性的想像力に関心を払ってほしい」とのメッセージを伝え、講演を締めくくった。

フェアで触れられる難関大学の深い学び

 東京大学教授の両講演とも、知的好奇心にあふれた参加者が大勢詰めかけ、誰もが時にうなずき、時にメモを取りながら、熱心に聴講していたのが印象的だった。

 また、別室で開催された大学入試担当者によるガイダンスでは、時間帯を3つに分け、東京工業大学・東北大学、筑波大学・千葉大学・慶應義塾大学、東京外国語大学・横浜国立大学・早稲田大学の3グループ計8大学が登壇。それぞれ約40分間の説明が行われた。大学別個別相談会には、東北大学、筑波大学、千葉大学、東京大学、東京外国語大学、東京工業大学、一橋大学、横浜国立大学、慶應義塾大学、早稲田大学の10大学が参加。パンフレットだけではわからない学校の情報について、個別の相談コーナーで学校担当者に直接自由に質問・相談ができるとあって、各大学とも行列ができるほどの人気を集めた。

プログラムの合間を縫って個別相談会に足を運ぶ参加者たち

 駿台講師による英語ワンポイントレッスンでは、早慶大編と難関国立大編を各2回ずつ駿台予備校講師がレクチャー。また、保護者のための難関大学最新入試情報説明会では、駿台の入試情報のプロである進路アドバイザーによる高3生保護者対象「難関大学最新入試情報説明会」と高1・高2生保護者対象「新課程入試のポイント」が複数回行われ、特に後者は満席で参加者が入り切れないほどの人気であった。その他、駿台進路アドバイザー・OBOGによる個別進学相談コーナー、学生寮を運営する共立メンテナンスによる一人暮らし相談コーナーが設置され、それぞれ受験生の要望に沿った細やかなアドバイスが行われていた。同フェアには親子での参加も多く、志望校についての新しい情報を得たり、入試に対する詳細なアドバイスを受けて不安を払拭したりと、それぞれのニーズに応じて活用し、満足した表情で帰宅の途についていた。

 教授自らが語る研究の魅力、大学担当者の詳細なアドバイスに触れ、各大学の深い学びの一端を知ることができた受験生たち。ますます志望校への憧れが増し、受験勉強へのモチベーションにつながったことだろう。難関大学の衰えぬ人気とそこで得られる学びの魅力に触れることができ、さらにその大学に入るための具体的な情報も示された充実したフェアであった。

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《羽田美里》

羽田美里

執筆歴約20年。様々な媒体で旅行や住宅、金融など幅広く執筆してきましたが、現在は農業をメインに、時々教育について書いています。農も教育も国の基であり、携わる人々に心からの敬意と感謝を抱きつつ、人々の思いが伝わる記事を届けたいと思っています。趣味は保・小・中・高と15年目のPTAと、哲学対話。

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