大学の魅力と先端研究に触れ、受験のモチベーション向上…駿台「難関大学フェア」

 駿台予備学校は2024年9月22日、難関国公立・私立大学が参加する「難関大学フェア」をお茶の水校2号館にて開催した。多くの受験生が来場し、最新の研究や入試情報について熱心に耳を傾けた。

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2024年9月22日に行われた難関大学フェアのようす
2024年9月22日に行われた難関大学フェアのようす 全 10 枚 拡大写真

 駿台予備学校は2024年9月22日、東京大学や早稲田大学、慶應義塾大学など難関国立・私立大学が参加する「難関大学フェア」をお茶の水校2号館にて開催した。同フェアは大学の教授・担当者による講演会やガイダンス、大学別個別相談会などのプログラムを1日を通して実施するもので、各大学の魅力や入試の最新情報を知ることができることから、毎年人気を集めているイベントだ。

 コロナ禍を経て4年ぶりに行われた昨年に続き、今年も前年を上回る数の受験生や高校生、保護者らが来場し、熱心に聴講した。最新の研究や入試に関する情報を得たことで、受験勉強のモチベーションアップにつながることだろう。

「難関大学の今」がわかる豊富なプログラム

 難関大学フェアは、駿台予備学校が積み上げてきたネットワークと知見によって提供される、「難関大学の今」がわかる毎年恒例のイベント。大学教授による講演会や、入試担当者によるガイダンスおよび大学別個別相談会が行われ、それぞれの大学における最先端の研究内容や各校の魅力を知ることができる。パンフレットだけではわからない学校の情報を直接大学の担当者から聞くことができ、参加者は熱心に聴講し、相談を行っていた。

 本記事では、大勢の高校生や保護者で教室が埋まっていた大学教授による講演会の中から、京都大学大学院経済学研究科教授であり、同研究科長の依田高典氏による講演「ココロの経済学~行動経済学から読み解く人問のふしぎ~」の概要を紹介する。

行動経済学から迫る人間の不思議

 依田氏は専門分野である行動経済学について、「近年発展著しい分野。現代の行動経済学では、人間の心を取り入れ、より豊かで生き生きとした新しい経済学を作り出しており、何度もノーベル経済学賞の栄冠に輝いている先端的な分野である」と述べ、文系・理系いずれにとっても面白いはずとその魅力を紹介した。

 自身の経歴について「59歳になった今、この年でようやく研究がうまくいくようになって、アメリカのライバルなどとも競争しながら研究を進めている」と振り返った。「人生は長く、何が起きるかわからない。今の1~2年は後からいくらでも取り返しがつく。目の前の成功や失敗はあまり気にせずに、焦らないことがいちばん大事」だと語った。

 そして、京都大学については、京大出身の著名人としてノーベル賞受賞者の物理学者・湯川秀樹氏や医学者・山中伸弥氏、哲学者・西田幾多郎氏、お笑いタレント・宇治原史規氏、世界的指揮者・朝比奈隆氏などを例に挙げ、「京都大学には『おもろい』を尊ぶ文化がある」と特色を紹介。同大学経済学部については、「文理融合に非常に力を入れ、文理融合型の経済学教育を展開していることが最大の魅力」とし、入試についても文系・理系両方の一般入試および特色入試に対応していると話した。

 また、大学としては、データサイエンスに今もっとも力を入れているとのこと。データサイエンス科目を必修とし、専門課程で副専攻化するなど、具体的なカリキュラムも紹介した。

人間は合理的ではなく感情に振り回される

 そしていよいよ、本題となる行動経済学における自身の研究について語った。既存の経済学は「近代経済学」と「マルクス経済学」が2本柱であったが、1990年のソ連崩壊以降マルクス経済学が力を失い、近代経済学が一本槍化。近代経済学はその後、「伝統的な近経」と、依田氏らが進める「新しいことを進める近経」に分かれたと話し、今の経済学研究は非常に面白くなっていると熱く述べた。その背景には、数学一辺倒の無味乾燥だった従来の経済学が、21世紀に入り、データサイエンスを取り入れることで、個人のデータ等を活用しながらひとりひとりの生身の人間を分析できるようになったことがあるという。

 依田氏の話をもとに、経済学の歴史を整理しよう。18世紀、「経済学の父」と呼ばれるスコットランド人のアダム・スミスから始まった経済学は、当時の産業革命社会を支えた。アダム・スミスは当時から、著書の『国富論』『道徳感情論』にて、今日でいう伝統的・合理的な経済学と、感情も重視する行動経済学の2本の潮流をすでに示していたという。

 その後、20世紀に入り、2度の世界大戦で国力が衰退したイギリスにて、ジョン・メイナード・ケインズが「マクロ経済学」を打ち立て、経済学で革命を起こした。これは当時起こっていた世界大恐慌に対処するべく、政府が大恐慌を克服するための責任をもつために考案したもので、世界の経済における国家の責任を明らかにし、初めて経済学という学問体系化した。当時、人間は、合理的で感情に左右されない「ホモエコノミクス(経済人)」であると定義されていた。したがって20世紀までは、人間はあくまでも合理的な行動しかしないので、その行動を見れば心の中をも理解できるという「行動主義」がベースとなっていた。

 20世紀後半、経済学の主流に「行動経済学」が置かれたが、ハーバート・サイモンがこれまでの前提に一石を投じることになる。「人間は必ずしも合理的でない」ことを提唱したのだ。その後には、心理学者のカーネマンが経済学モデルに心理学を取り入れ、人間の「心」を中心に経済学を変革する、新たな行動経済学を作り上げた。 

 さらにその後、リチャード・セイラーにより、お金(合理性)だけでなく、言葉や情報の力をもって人間により良い選択肢を取るよう行動変容させる「ナッジ(優しく誘導する)」という手法が提唱される。たとえば臓器移植に関する賛否を問う際、2つの選択肢から選ばせるよりも、望ましい選択肢をデフォルトで設定(この場合は「賛成」をデフォルトで設定)しておくことで、9割以上が選択肢を「賛成」のままにすることがわかっている。このような「オプトアウト方式」はナッジの代表的な例だ。

難関大学フェアに登壇した京都大学大学院経済学研究科教授・依田高典氏

 依田氏は「人間には感情があり、必ずしも合理的でない行動を取る(=限定合理性)。20世紀までの経済学は、こういった点で生身の人間から乖離してしまっていた」と過去の経済学を振り返った。そのうえで、現在の経済学はエビデンスと生身の人間の心を重視するようになり、「21世紀のデータサイエンスの時代になって経済学は変わり始め、僕の関心によりマッチするようになってきた。ここ数年は海外のライバルとしのぎを削りながら研究に熱中している」と生き生きと語った。

「ココロの経済学」とは…逃れられない「現在性・確実性バイアス」

 続いて、依田氏は、行動経済学の重要な概念の1つ「バイアス(乖離)」について説明した。これは、人間が合理的に判断して取るべき選択肢を理論値とすると、実際の人間は限定合理的で感情に揺らいでしまうため、常に現実と理論値が乖離するというものだ。

 そのうえで、依田氏は2つの重要なバイアスとして「現在性バイアス」「確実性バイアス」を紹介。これらは人間の基本であり、この2点が「わかっていてもやめられない」「現状を維持して行動変容できない」生きづらさや苦しみを生む起源となっていると語った。

 たとえば、預金に関する二者択一問題。A「今すぐに10万円を受け取る」、B「1年後に11万円受け取る」の二択の場合、大半がAを選択するのに対し、C「1年後に10万円を受け取る」、D「2年後に11万円を受け取る」の二択の場合は大半がDを選ぶ。これは合理的な経済学からみると矛盾している。人間は「現在」「今すぐ」というものに特別の価値を感じる傾向にあるため、金額よりも「現在」を含む選択肢に飛びついてしまうというものだ。このように「現在」を特に重視する傾向を「現在性バイアス」という。

 もう1つの「確実性バイアス」は、人間は「確実性」を特に重視する傾向があるとするもの。同じく二者択一問題で、A「80%の確率でもらえる4万円」、B「100%の確率でもらえる3万円」だと大半がBを選ぶ。一方、C「20%の確率でもらえる4万円」とD「25%の確率でもらえる3万円」では大半がDを選ぶ。これも合理性が破綻している例だ。これは選択肢に「100%=確実」を含めたことから起こったことであり、「絶対」「確実」に特別の価値を感じてしまう「確実性バイアス」の影響であると、依田氏は解説した。

 依田氏は、人間はこれらの2つのバイアスゆえに、現在と確実性を過剰に大切にしてしまう「現状維持」に陥りがちであるとし、それゆえ、人間はわかっていても行動変容できない弱い存在であると述べた。

 これらが生まれてくる理由については「ソフティックマーカー仮説」で説明できるとした。「ソフティックマーカー仮説」とは、ある種の反応が人間の体に痕跡として埋め込まれているとするもの。たとえば人間の喜怒哀楽の感情は、危機に直面したときに身を守るための恐怖心や闘争心といった感情が起源とされている。太古の昔、人間は他の動物と同じく、一度のリスクが命取りとなる時代を生きていたため、現在も「今」を重視し(=現在性バイアス)、不確実性を嫌う(=確実性バイアス)傾向が遺伝子に埋め込まれていると解説した。

 文明が発達し、自らの手で環境を作り変えることができるようになり、リスクが下がってもなお、遺伝子は急には変わらない。依田氏は、受験生の立場に話題を引きつけ「進路選択や受験勉強の際に生じる感情やバイアスが、より良い選択や学習の妨げになり、生きづらさにつながることがある」と語った。

 「人間の現在性・確実性、現状維持バイアスは心のクセであり、遺伝的に体の中にあるもの。(短中期的な)心がけでどうにかできるものではない。『生きづらさ』は人間の宿命で、逃げることはできない。『人間はわかっていても行動変容できない弱い存在』という、ココロの経済学的な見方を理解しておくことで、長期的な生活習慣の改善や正しい選択に役立つ」と助言した。

「ココロの経済学」を活かす…大震災後の電力ピークカットの社会実験を例に

 続いて依田氏は、昨今における自身の研究を紹介した。同氏は2010年から経済学におけるフィールド実験の研究を進めており、とりわけ2011年の東日本大震災後に大規模な電力危機が発生したことをうけて、スマートグリッド技術の社会実装化に向け、節電行動の大規模なフィールド実験を実施した。この実験では、実際の生活現場における人間の行動の因果関係を仮説検証するために、被験者を、介入を受ける「トリートメントグループ」と介入を受けない「コントロールグループ」の2グループに分け、両者の結果を比較することで介入の効果を計り、因果性を特定した。

 具体的に依田氏らは、関西電力等と連携して、京都府のけいはんな学園都市に住む700世帯を対象に、2012年夏に15日、2013年冬に21日の節電に取り組んでもらう社会実験を行った。トリートメントグループはさらに発電コストに応じて電気料金が変動することを伝えたうえでの節電要請をする「変動料金グループ」と、節電のお願いのみをする「節電要請グループ」の2種類を設けた。コントロールグループと合わせた3つのグループの行動を比較し、どれだけ節電が実現されるか効果を測定した。同じタイミングで節電要請と変動料金を発動し、対象グループの電力消費量を確認し、他のグループと比較することによって、どれだけ節電効果があったかを特定したという。

 その結果、夏の実験では節電要請グループは平均3%、変動料金グループは平均15~20%の節電効果がみられた。さらにこの節電効果がどの程度持続するか経過をみたところ、節電要請グループは当初8%の効果があったものの、4日後には刺激に対して慣れてしまい効果がなくなる「馴化」がみられた。一方、変動料金グループは馴化せず、期間中はほぼ15%の節電効果を維持していた。

 その後、冬に再度同じ3グループで節電の社会実験を行ったところ、節電要請グループは馴化から脱して節電効果が復活したが、4日目以降は再び馴化が起こり、節電効果が再消滅。これにより「馴化、脱馴化、再馴化というパターンをもつことを世界で最初に発見した」と依田氏は語った。

 対して、変動料金グループは期間中馴化せず15~20%の節電効果を維持。さらに実験終了後の春と秋も節電の効果が半分ほど残っていたという。このような習慣形成効果は、一時の家電の買い替えによるものではなく、家電の設定変更や生活の見直しなどの行動変容の結果と解釈できるという。依田氏はこうした事例を示しつつ、現在は機械学習を用いた因果推論を手法として、ビッグデータを活用して研究をさらに進めていると紹介した。

「好き」を頑張ることが社会貢献につながる道を探そう

 最後に、高校生や受験生へのメッセージを贈った。依田氏は自分自身の好きな言葉として「人事を尽くして天命を待つ」を紹介。努力を尽くすことは大事だが、結果は自分だけではどうすることもできない。結果にとらわれすぎないことが重要であり、自己を犠牲にすることなく、自己実現を通じて社会貢献する道を見つけてほしい。「自分がいちばん好きなこと、頑張れることをやって、自分が幸せになり、その結果として社会に貢献する。自分を生かす道を探してほしい」とエールを贈った。

「自己実現を通じて社会貢献をする道を探してほしい」とエールを贈る依田氏

 京大の自由闊達な環境と、そこで進められている最先端の行動経済学研究について生き生きと語った依田氏。「今進めている研究が楽しい。海外の研究者たちと競い合いつつ、手応えを感じている」と話す依田氏の笑顔が印象的だった。自由を掲げて「おもろい」を尊ぶ京大だからこそ「好きなことを頑張って幸せになり、社会貢献する」、まさにそんな理想の生き方をするOB・OGが多く輩出され、日本の発展に資する研究が続々と発信されているのだろう。駿台難関大学フェアを通じて、参加者皆、京大をはじめとする難関大学の魅力に触れ、志望校へのモチベーションをますます高めていたようすだった。

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《羽田美里》

羽田美里

執筆歴約20年。様々な媒体で旅行や住宅、金融など幅広く執筆してきましたが、現在は農業をメインに、時々教育について書いています。農も教育も国の基であり、携わる人々に心からの敬意と感謝を抱きつつ、人々の思いが伝わる記事を届けたいと思っています。趣味は保・小・中・高と15年目のPTAと、哲学対話。

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