駿台主催「東京科学大学が挑む未来」…学生の直球質問に東京医科歯科大・東京工業大学長が回答

 東京医科歯科大学と東京工業大学が統合し、新たに「東京科学大学(仮称)」として2024年に設立される。本記事では、同大学の求める学生像から未来への展望、気になる入試の方法まで、東京医科歯科大学学長の田中雄二郎氏と、東京工業大学学長の益一哉氏に話を聞いた。

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東京医科歯科大学学長の田中雄二郎氏(左)と東京工業大学学長の益一哉氏(右)
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 東京医科歯科大学と東京工業大学が統合し、新たに「東京科学大学(仮称)」として2024年に設立されるというニュースは、大きな話題となった。

 本稿は、同大学の求める学生像から未来への展望、気になる入試の方法まで、東京医科歯科大学(以下、医科歯科大)学長の田中雄二郎氏と、東京工業大学(以下、東工大)学長の益一哉氏にお話をいただいた。後半では、各大学の現役学生による質疑応答を紹介する。本企画は、両大学に毎年多くの合格者を輩出する駿台予備学校が主催した。

「東京科学大学に新しい何かを感じたら、ぜひ目指してほしい」

--新たに誕生する東京科学大学は、どのような学生・人材を育成したいか、おふたりのご意見をお聞かせください。

益氏:「自分の意志で何かをしたい」と考えている人を育てていきたいですね。これまでもたくさんの卒業生に会いましたが、自分の意志で考えて行動している人はとても生き生きとしていて、結果として、どんな分野でも何かしら社会にインパクトを与えています。

田中氏:学術の進歩が激しい時代においては、学んだことがすぐ陳腐化してしまう可能性が高い。だからこそ、新しく生まれる東京科学大学では、絶えず学び続ける人を育てていきたいと思っています。そのためには、物事の考え方の基本をしっかりと学んでもらいたい。あわせて、それをどうやって新しいものに転換していくか、ブラッシュアップしていく考え方も学んでほしいと考えています。

--では、現在の中高生が、今後、東京科学大学を志望するにあたって、どのような学びを大切にしてほしいとお考えですか。

田中氏:中高生の皆さんには、現在の勉強方法が果たして自分に合っているかをよく考えながら勉強してほしいと思います。もし今、勉強が思うようにはかどらなかったり、成績が伸び悩んだりしている場合は、その勉強法が自分には合っていないだけかもしれません。ですから、自分に合う勉強方法を見つけ出すために試行錯誤してほしい。その試行錯誤は、大学に入って、高校までとはまったく違う環境で勉強が始まったときも必ず役立ちます。受験を突破するために学校や塾で教わる方法は、大学でのそれとは異なるところが多い。そのため、大学に入学すると勉強の方法がわからなくなってしまう人もいるのです。

 東京科学大学の求める「絶えず学び続ける」姿勢は、受験勉強以前の、中高生の勉強の段階から始まっています。ぜひ、自分に合う勉強方法はどんなスタイルなのか考えながら勉強してほしいと思います。

益氏:志望する大学というのは、必ずしもうまく理由を言語化できるわけではないけれど、そこでの学びのどこかに共鳴し、感じるものがあるからこそ目指したくなるのではないでしょうか。ですから、受験生の皆さんは、東京科学大学に新しい何かを感じるなら、その直感を信じて、入学してきてほしいですね。

--田中学長は自分に合った勉強方法を考えてとのことですが、「こう考えたら良い」という考え方のヒントがあればお教えください。

田中氏:個人的なことですが、私は中学生時代とても成績が悪く、家庭教師までつけてもらったのに、それでも成績が上がりませんでした。その理由は、先生が悪かったのではなく、勉強法が自分に合っていなかったからでした。その後、自分なりにあれこれ試した結果、自分にいちばん向いている勉強法を見出すことができたのです。たとえば「しゃべりながら書く」「解き方を中心に論理的に理解する」など。勉強法を改善して以降、成績が上がったという経験があります。

 このように、絶えず試行錯誤しながら自分に合った学びを探求し続ける姿勢は、医科歯科大に入学した後も、卒業した後にもプラスになりました。

--ありがとうございます。益学長の「直感を信じて」というお言葉も響きました。益学長ご自身、実際に直感を信じてよかったエピソードはありますか。

益氏: 私は神戸市立工業高等専門学校を卒業後、東工大に編入学したのですが、実は東北大学にも憧れがありました。正直に言うと、東工大に入学してからも「やっぱり東北大が良かったかな」と思うことがありました。卒業後、東北大に勤めるのですが、そのときは東工大に残っていればなぁと思うことがありました。でも、決めたのは自分です。皆さんに大事だとお伝えしたいのは「隣の芝はいつも青く見えるけれど、自分の決断を信じて良い」ということ。決断した自分を肯定すること。直感を信じろというのは、そういうことなのです。

「変化を作り出す側」の大学でありたい

--早くも東京科学大学は大きな注目を集めていますが、他の大学とは違うというポイントを、あらためて中高生の皆さんにお伝えいただけますか。

益氏:東京科学大学には「医工連携」が期待されていると思いますが、私はこの医工連携には3つのフェーズがあると考えています。 

 まず「医工連携1.0」では、メディカルエレクトロニクスや超音波診断などの技術を使った検査の精度や手法などの進展。今注目のAIによる診断やヘルスケアの拡充は「1.5」といったところでしょう。さらに「2.0」では、患者さん目線からの医者いらずの世界をつくり出す。医者いらずの世界にするためには、医学も理工学も、両方やらなくてはいけません。では、一体「3.0」とは何か。これは、医者いらずの世界が実現した先に広がる未知の未来を指します。どんな未来かなんて、まだ誰もわかりません。最先端の技術を知る東工大と、多くの人と直接関わる医科歯科大とが腹を割り、誰も想像しえない未来を一緒に考えていきたいというのが「医工連携3.0」です。

 東京科学大学は、ここまで新しいことに挑戦しようとしています。受験生の皆さんには、我々がそれくらいの気概と覚悟をもっていることをわかってもらえたらと思います。

田中氏:これだけの規模の国立大学の統合ということで、我々はかなり珍しい一歩を踏み出そうとしています。「変化に適応する」ことを目指す大学は現在も数多く存在しますが、我々のつくる新しい大学は「変化をつくり出す側」になりたいと考えています。

 医科歯科大も東工大も、お互いにそれぞれの分野では高く評価されていますし、今のまま単独でも十分やっていけるでしょう。しかしここであえて「一緒にやってみよう」とダイナミックな挑戦をすることこそ、変わりゆく時代に適応することだと思うのです。

 ですから「変化をつくり出す側になってやろうじゃないか」という学生たちに集まってほしいし、一緒になって変化をつくっていきたいと考えています。次なる世界は、ぜひそんな皆さんにつくってほしいのです。

--変化をつくりだしたいというおふたりの気迫を感じました。そんなおふたりは、高校・高専時代どのような学生だったのでしょう。エピソードを教えていただけますか。

田中氏:私は中高一貫の男子校出身ですが、浪人して駿台に通いました。予備校は、教えるのが上手な先生が揃っていて、あまりにも洗練されたカリキュラムだったので、自分で勉強法を工夫する必要はありませんでした。無駄がなく効率的だった一方で、大学入学後はそのようにお膳立てされた環境があるわけではないので、そこでギャップを感じた記憶があります。受験生時代からの自分なりの学習法や学びの模索の延長で、あらためて自分に向き合い、試行錯誤を重ねながら少しずつ成長しましたね。

益氏:先ほどもお話したように、私は高専を卒業後に東工大に編入学しました。17~18歳のころは好きなことばかりやっていました。電気工学科に在籍し、プログラミングが面白そうだと思って独学で取り組んだこともあります。当時は、まだコンピュータが学校にはなかったので、企業が主催するさまざまな講習会に参加しては、その企業の方と仲良くなり、使わせてもらっていました。その経験から、大人の方と付き合うことで、いろいろと教えてくれたり、助けてくれたりすることがわかりました。当時培われた「人に頼ればなんとかなる」というポジティブなマインドセットは、今でも大いに生かされています。

現状の形にとらわれない多様な入試を検討

--では、受験生も注目している入学試験についてお聞かせください。東京科学大学の3つのコアバリューの中に「変わり続ける大学」とありました。新分野を開拓する情熱をもつ人材を集めたいという思いもあるのでは。入試の型や方式を変化させようというお考えはありますか。

田中氏:入試の型や方式を変更する場合、少なくとも2年前に告知するというルールがありますので、すぐに変更の予定はありません。とは言え、それぞれの大学の今の入試が最適解かと言われると、改善の余地はそれぞれありますので、今後は統合前から少しずつ協議に入っていく予定です。

益氏:おっしゃる通り、現在の入試がベストかと言うと、決してそうではないと私も思っています。偏差値序列だけではない、多様な入試を行っていきたいと考えています。

--新しい入試に期待しております。最後に、受験生たちに向けてメッセージをお願いいたします。

益氏:大学受験を控えていると、保護者や周りから色々と言われると思いますが、「自分がやりたいことはこれだ」と思ったら、その決断を信じて良い。あなたがやりたいことをぜひやってほしいと思います。

 決断をした後に「やっぱりあっちの方が良かったかな…」と考えることもあるかもしれません。でもいつだって「隣の芝は青い」。自分の決断を信じ続ける気持ちをもってほしいですね。

田中氏:受験生のころは、モチベーションの維持が難しいと感じることもあるでしょう。「志を高くもつことが大事」と言われても、どうしたら良いのか悩みますよね。

 そこで私が勧めたいのは、生き方に共感できる人を探し、その人についての情報を集めてみることです。とことんロールモデルに惚れ込んで、その人の高いモチベーションや、挫折から立ち直った方法などを自分の生き方の参考にしてみる。そうすれば自ずと志も高くなっていくのではないでしょうか。

--受験だけではなく、これから生きていくうえでも大切なメッセージをありがとうございます。

入試から未来の構想まで、現役学生の質問に学長が回答

 後半は、駿台予備学校で学び、両大学へ進学した在学生が参加し、その質問に答える形で、質疑応答が行われた。参加した学生は、医科歯科大医学部医学科2年の松本尚樹さん、1年の山内陸さん、東工大工学院4年の小島未宇さん、環境・社会理工学院1年の鈴木水鳥さんの4名だ。

Q.学長ご自身が大学時代に励まれたことで、その経験が今でも生きていることは何でしょうか。(医科歯科大・松本さん)

田中氏:医学部の仲間と一生懸命勉強したことですね。同級生が「本質的なことは何か」から学ぶ姿勢を見て、それまでの自分は表層的にしか学んでこなかったことに気付き、物事を本質から考えることを心がけるようになりました。

益氏:それなりに勉学に励みました。私が学生のころは海外に行きにくかったので、日本の各地を貧乏旅行しました。そのおかげで、いつでもどこでも眠れるようになったのも実りかな(笑)。

Q.益学長は、学生団体が主催するさまざまな催しに顔を出されていますが、勉学以外の部分でアクティブに活躍する人物の共通点は何だと思いますか。(東工大・小島さん)

益氏:人間は生まれながらにして本能的にさまざまなことに興味を抱くもの。幼い子供なら誰もがもっているそんな好奇心を、ずっと持ち続けているかどうかではないでしょうか。

Q.東京科学大学の入試は、共通問題を作成するのか、それとも学部別になるのでしょうか。(医科歯科大・山内さん)

益氏:国立大学は6年ごとに「中期目標・中期計画」を立てるが、現在は2028年度からの計画を議論しています。その中には受験生の皆さんの関心事の、入試に関することも含まれています。内容はまだお伝えできませんが、じっくり時間をかけて検討すべき事項だと思っています。

田中氏:先ほどもお伝えした通り、入試を変える場合は2年前に発表しなければいけないルールがあり、入試の大きなフレームワークはこの2年間は変えません。ただこれまでも前年度の反省をふまえ、出題内容をチューニングしていますし、出題者も交代しているので、今まで同様問題の難易度や傾向は変わる可能性があります。

Q.私は総合型選抜で東工大に合格しました。現在、東工大で実施されている総合型選抜の医系学部への拡大は検討していますか。(東工大・鈴木さん)

益氏:東工大では、入試の方法と卒業時の成績に相関関係はないことがわかっています。学生が卒業時に結果を出せるかどうかは、大学に入ってモチベーションをもって勉強したかに尽きます。その点、学びの志高く入学してくれる総合型選抜を用意していることは、東工大にとって大きな自信になっています。

田中氏:現在の総合型選抜をあらためて検証したうえで、今後、医系学部にも拡大していく可能性は考えられますね。

Q.入試における女子枠は、今後も理工学分野のみで実施をしていくのでしょうか。(東工大・小島さん)

田中氏:東京科学大学では、最終的には男女比率が不均衡でない状態が理想です。現在の医科歯科大は看護学科など含めると女子の比率は60%。もっとも低い医学部医学科は35%です。ただ、この分野における女子比率は、今後自然と上がると考えられるので、今のところアファーマティブ(積極的格差是正)な対策は取らなくても良いと考えています。

益氏:東工大は事情が異なります。東工大では女子比率が学士課程で13%と非常に低い。まずは25~30%あたりを目指すにしても、現状では積極的に格差是正の対策を取らないと達成は難しいと考えています。具体的な目標は設定していませんが、30%を超えれば自然に増えていくと想定されますが、ひとまず現在の状況からは「女子枠」を設定し、続けていく必要があると考えています。

Q.統合によって、学生に期待することは何でしょうか。(医科歯科大・松本さん)

田中氏:医系は、目の前の患者さんから問題意識をスタートさせる「フォアキャスト」の考え方だが、工学系は、未来から見る「バックキャスト」の考え方が基本だと思う。ひとつの物事を捉えるとき、2つの見方ができるのはプラスになります。お互いの物の見方を尊重し、取り入れることで、新しいアイデアが生まれてくるはずなので、ぜひ仲良くしてほしいですね。

益氏:医工連携はこれらの社会に絶対必要な分野になるでしょう。「新しい学部がどうなるか」といった近視眼的な視点ではなく、今は誰も想像がつかないような「医工連携3.0」を皆さんに考えてほしいと思います。理工学の視点と医歯学の視点、それぞれの持ち味を大いに活かしながら、一緒に新しい未来をつくってほしいです。

Q.10年後20年後の東京科学大学はどのような大学にしたいですか。(東工大・小島さん)

田中氏:世界に貢献する大学を目指しているが、同時に日本にも貢献したいと思っています。東京科学大学は「科学技術立国の最高峰」と評されているが、「科学技術立国の再興」も目指す大学でありたい。皆さんがそういう大学を目指してくれると嬉しいです。

益氏:天邪鬼な回答になるけれども、変化の激しい時代の10年後、20年後なんてわかるわけがありません。正直、東京科学大学がどうなっているかもわからない(笑)。けれど、わからないことにチャレンジし、田中学長のおっしゃっていた「日本の再興」の実現につながる新しいものを生み出すポテンシャルに満ちた大学であることは間違いありません。先が見通せない未来にも果敢にチャレンジし続ける大学にしたいですね。


 対談では、両大学がこれまでの歴史のなかで積み重ねてきた知見をもって、予測不可能な未来を切り拓いていく学生を育てていきたいこと、そして、自らも大学を育てていきたいという気概をもつ学生を求めていることを感じた。医科歯科大と東工大という、日本が誇る最高峰の大学の統合は、単なる医工連携に留まらず、ここからこれからの日本を変えていく人材が多数生まれることが期待できる。

 今回の記事を読んで、東京科学大学に「新しい何か」を感じた、あるいは「この大学で自分ができることに挑戦してみたい」と思った中高生の皆さん、ぜひ東京科学大学を目指してみてほしい。

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《相川いずみ》

教育ライター/編集者 相川いずみ

「週刊アスキー」編集部を経て、現在は教育ライターとして、ICT活用、プログラミング、中学受験、育児等をテーマに全国の教育現場で取材・執筆を行う。渋谷区で子ども向けプログラミング教室を主宰するほか、区立中学校でファシリテーターを務める。Google 認定教育者 レベル2(2021年~)。著書に『“toio”であそぶ!まなぶ!ロボットプログラミング』がある。

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